「八重山民謡に見るヒトとカニとのかかわり」(武田淳、大山己)
「八重山民謡に見るヒトとカニとのかかわり〔含 コメント〕」(武田淳、大山己「季刊人類学」1989)は、「網張(アンパル)ヌ目高蟹(ミダガーマ)ユンタ」のカニたちを分析している。
目を止めるのは、「ヤクジャーマ蟹」では、ベニシオマネキとされているが、「発見・採集の困難度から」ヒメシオマネキを当てはめていることだ。
形態的特徴として赤いはさみ脚をもち、行動学的にはベニシオマネキはよくはさみ脚をふるので、踊り役に適しているのではないかという疑問は残るのであるが、昼行性でかつ群居性のヒメシオマネキの方が個体数が多いためにヒトとの出会いも多かったのではないかと判断するからである。
ぼくたちの問題意識は、農耕と人のかかわりではなく、トーテム蟹にあるので、この歌を離れて、どちらがふさわしかといえば、「赤」色と鋏の上下が、トーテムにはより意味を持ったと考えられる。
しかし、それはともかく、「ミナミヒメシオマネキ」はとても美しい。この色をモチーフにした土器がないか、探ってみたくなる。
ここには安渓遊地のコメントがあって、これが面白い。
西表島干立集落では、ツノメガニとミナミスナガニの両方を指して「パルン」と呼ぶ。面白いのは、北琉球の阿波連下層式土器の蟹モチーフが、このふたつの蟹になるのだが、ひとつにならないのが不思議に思っていた。これは西表島の例だが、両者はおなじものとして括られていたなら、とてもよく了解されてくる。
西表島では、干立集落の人は、「フタデガタリャー」と呼ぶ。ガタリャーとは、ワタリガニのことだ。「小さいけれども攻撃的で、はさまれるとひどい目にあう」。あだ名には、トーテムの記憶が宿っている。
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