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2017/08/04

「自己対象転移の断絶と修復における治療作用」他(安村直己『共感と自己愛の心理臨床』)

 安村直己は、自己対象転移における治療プロセスについて、ストロロウを引いている。

 「子どもの頃、複雑な自己対象(体験)の失敗を繰り返し経験している」場合、

(前略)自己対象転移の中で分析家との絆の断絶を分析することの治療作用は、そこで初期の発達的な外傷が再び蘇って体験され、特に重要なことは、その後、そうした患者の痛みの感情に分析家がどのように応答するかにかかっているのである。つまり、転移関係の中で、分析家が、子どもの頃に二次的に切望された「受け容れ、理解してくれる親」として調律した反応を返し、子どもの心を抱っこしholding、一次的な自己対象の失敗によって生じた患者の苦痛な情緒的反応を和らげることが、治療作用の源泉になると考えられるのである。

こうして自己対象との絆が強められ、拡張され、拒絶や失望への感情的反応を分析家が受け入れてくれることへの信頼が増すに伴って、患者は一次的自己対象への思慕の情をより自由に表現できるようになる。こうした変化に伴って、これまで捨て去られてきた痛みの感情は徐々に患者の心の中に統合され、変容されて、感情的な耐性の能力が強まり、これまで滞ってきた発達のプロセスが再び進みだすのである。(Stolorow,1993,安村訳)

 安村はこれを受け、「必然的に生じる痛みが理解されフォローされて、二次的な自己対象ニーズが適切に満たされるからこそ、自己対象への同一化や自己対象機能の内在化が促進される」としている。

 また、「自己対象転移」には、自己対象体験を治療者との関係に求めようとする「自己対象的次元 selfobject dimention」と、葛藤の元になっている対象関係を治療者との間で繰り返してしまう「反復的次元 repetitive simention」の二つの次元がある。

クライエントが、治療者との関係を早期の外傷的反復の予兆のように体験した際には、転移の反復的次元が前景を占めることとなり、クライエントの自己対象への渇望は背景に退いてしまう。しかし、そこで治療者が、クライエントが治療者とのつながりの断絶を体験していることを感受し、そのことを共感的に理解することができたとき、転移の自己対象的次元が復活し、その結果、自己-自己対象関係はさらに安定したものとなるのである。

 ところが一方、クライエントはその治療者の理解を怖れもする。治療者の深い理解は、

これまでクライエントが圧し殺してきた太古的な激しい自己対象ニーズを刺激し、それが治療者に向いて噴出してしまうと、結局、再び自分が拒絶される結果を招き、いま以上に傷つくことになりはしないかと怖れるからである。

 これは再び、転移の反復的次元が喚起されることになる。「治療者はこうしたクライエントの転移の次元のゆれ動きに敏感に調律し続けながら、その理解を言葉化していくことが必要となるのである」。

 クライエントの主観的体験世界を形成している原理は、「オーガナイジング・プリンシプル organizing principle」と呼ばれている。間主観的アプローチでは、クライエントのオーガナイジング・プリンシプルが治療者との共同作業で解明され、より柔軟なオーガナイジング・プリンシプルが新たに展開されていくことが促進される。

 治療によるオーガナイジング・プリンシプルの変化とは、これまでの古いオーガナイジング・プリンシプルが解消されるのではなく、「新しい体験によって新しいオーガナイジング・プリンシプルがそこに新たに加わることだとされている」。

 それでは、その理解の「言葉化」はどのように、どこまでなされればよいのか。それはやはり問題というに値するようで、「暗黙の領域を言語化することで、体験からの距離が生じ、現在進行中の「今ここで」のプロセスが中断してしまうリスク」が指摘されている。

 安村は、言語化による「生の体験の断絶」は、言葉を持った人間の宿命かもしれない、と書く。「合一の世界の断絶」と「合一の世界との融合」が、行きつ戻りつする揺れは、人間の自然な体験のあり方なのかもしれない。そして、齋藤久美子の言葉も引いている。

臨床家の解釈的介入など「他者の言語」とのズレは、自他間の距離を安全に守りながら、自己理解・自己再体験の仕事に有意義な一石を投ずる働きをすると思われる。

 それを安村は「ほどよい揺らぎ」としている。

 とても大切な示唆を得ることができた。著者に感謝したい。 


『共感と自己愛の心理臨床:コフート理論から現代自己心理学まで』

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