ザン(ジュゴン)儀礼の幻視
幻視するザン(ジュゴン)儀礼の細部をみておく。
ザン(儒艮)は群をなして寄るのではなく、二三匹或は数匹が、リーフの割目に沿うて時たま浅瀬まで上って来る事がある。漁夫はこれを捕獲しても家に持ち帰らず、浜で料理して食うに過ぎない。家に持帰ったら、その家の主婦が死ぬか、家族の者が海において不慮な災難に逢うものとされている。ザンが上ると時化が来るといわれ、ノロや神人に世直しの祓いをして貰う事になっている。(島袋源七「沖縄における寄り物」「民間伝承」15巻11号(通巻162号)、民間伝承の会、1951年11月)
ザンを家に落ち返ると、「主婦が死ぬ」と「海で遭難する」。この他に、妊婦が食べるのは安産に効くとも言われる。
ここから類推できるのは、ザンを男性だけで食べるということが、「無事な出産」と「海で遭難しない」に結びつくということだ。ぼくはここに、ザンとの交接も想定する。
ザンを食べる。胞衣を食べるということだから、「安産」。また、サンゴ礁の精霊と同一化することにもなるから、「海で遭難しない」。
ザンとの交接。兄妹婚と同じだから、兄妹の婚姻の先取り。
後者にサンゴ礁の精霊との一体化を加えるべきか、分からない。交接がこの段階で一体化を意味していたか、不明だ。
ザンとの交接は兄妹婚の禁止とともに意味をなくす。ザンとの交接が、ただの風俗のようにかすかに残存。ザンを食らうことは残存し、その意味も変形されつつ継承された。
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