「インセストとその象徴」(内堀基光)
「インセストとその象徴」のなかで内堀基光は書いている。
ボルネオのケラビット族にはこんな説話がある。ひとりの孤児が野生動物と遊んでいるのをみて、村人がそれをあざ笑った。すると、雷雨が突然、村を襲い、村人と少年は石と化した。
内堀は分析を進めて、この「嘲笑」が、性的な関係を含んで甘えを認め合う「冗談関係」であるのを突き留めている。そして、
インセストの禁止を破ることは人間と動物との境界を破壊することと類比的であり、いわば《自然》(動物)と《文科》(人間)の境界を破壊することである。
という考えを導き出している。
ここからいえば、琉球弧の母系社会の出現は、人間と動物とのあいだに境界を設けたことと同義になる。兄妹婚の禁止は、同時にジュゴンとの性的な関係の禁止を意味した。ここでの言い方になぞらえれば、島人が人間的な文化を持ったことになる。
たしかに、母系社会のあり方は、文化の名に値するようには見える。ぼくは、母系社会の出現の背景に、島人の時間・空間認識の拡大を置いたが、そこには人間と動物の区別という思考を読み取ることができるということかもしれない。
それでもその後の成り行きをみれば、それは完全には成就しなかったことが分かる。
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