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2017/04/11

「カーラヌ バタサヌ アブダーマ ユングトゥ」(西表島)

 これは、『八重山古謡』で見知っている詞とは異なっている箇所があって、とても関心をそそられる。

 井戸 端にいる 蛙に 羽が生えて 飛ぶまでも
 屋戸の 桟にいる ヤモリが 大海に下って フカになるまでも
 森森の セマルハコガメが 大海に下って ウミガメになるまでも
 ヒルギの 下にいる ヒルギ貝が 珊瑚礁に下りて シャコガイになるまでも
 家の まわりにいる キシノウエトカゲが 大海に下って ジュゴンになるまでも
 石垣の 隙間にいる カタツムリが 大海に下って 夜光貝になるまでも
 我々の 命も 島と 共に あらしてください
 このようなお願いであります

 重要なのは、もともとの音だ。

 カーラヌ バタサヌ アブダーマ バニバムイ トゥブケ
 ヤドゥヌ サンヌ フダチメマ ウブトゥウリ サバナルケ
 ムリムリヌ ヤマメーマ ウブトゥウリ カミナルケ
 ブシキヌ シタラヌ キゾガマ ビーニニウリ ギラナルケ
 ヤーヌ マールヌ ボナチェーマ ウブトゥウリ ザノナルケ
 グシクヌ ミイヌ キザメーマ ウブトゥウリ ヤクナルケ
 バカケラヌ イヌテ シマトゥ トゥミ アラショリ
 カシユゥ ンザリ

 『八重山古謡』のユングトゥと異なるのは、キシノウエトカゲが、なんとジュゴンになることだ。もうひとつは、カタツムリがヤコウガイになる詞が付加されている。

 キシノウエトカゲがジュゴンになる。「ボナチェーマ」が「ザノ」。ぼくたちは音韻の変化について、法則的なものを仮説していrから、それに従うと、「ボナ」→「ザノ」はありうる。

 ありうると仮定すると、なぜキシノウエトカゲがジュゴン、なのだろうか。

 ・両者とも、貝と蛇の精霊の化身態である。
 ・砂地を這う(這うように泳ぐ)

 しかし、前者はトーテムであり、後者は胞衣魚だ。これ以上は、いまのところ進めない。

 カタツムリがヤコウガイというのは分かる気がする。「キザ」が「ヤク」になるのもありえる。

 石垣に詰めるカツムリ。おそらくヤコウガイは、サンゴの石垣に詰めているように見えるのだ。殻の様子も似てないこともない。

 直観だけれど、これは『八重山古謡』の詞よりも新しいのではないだろうか。

 子蛙が、翅をはやして化身するのは「蝶」だと、ぼくたちは仮説している。そして、「アブダーマ」は、音韻からも「ハビラ」になりうる。でき過ぎで戸惑ってしまう。

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