「ハイダ・グワイ風景論-トーテム・ポールの森の文化システム」(山崎邦夫)
山崎邦夫は、トーテム・ポールについてとても印象的な文章を書いている(「ハイダ・グワイ風景論-トーテム・ポールの森の文化システム」『立教大学ランゲージセンター紀要』)。
詳細紹介の暇がないので、申し訳ないが琉球弧と共鳴しあうところのみの備忘として。
ハウス・ポールは、そのふもとの家屋の中央正面で小さなアーチ状に入り口が造られている。いわばファサードの役目を持つ。そしてそこに刻まれた物語は、(中略)この家系の栄誉を記録し、また一族の物語を記録するメモリアルの役目を担っている。トーテム・ポールが「森と生きものと先住民との結節点になっている」。
そこに描かれていたであろうハクトウワシやクマ、オオカミ、シャチ、ネズミ、カエルそしてワタリガラスなどの象(かたち)は、「自分の心にある様々なもの、生きもののことや自分自身についての様々なこと、そして生きものと自分との関係を」シーダーの幹に彫りつけたものだった。先住民の彫刻家は「この新たな言葉を大きなシーダーの幹い接ぎ木し」、語りかけることで、人間と動物、自然界との同一性や対称的世界をそこに記憶しているのだ。
「トーテム・ポールはこうした一族の法典、家系図、民族の時間を越えたひとつの地図を著したものだとも言えるだろう」。「天を突くトーテム・ポールの姿は、この島の中心に聳えるとされる「大いなるシーダー」、地下と地上と天上の三界を結ぶ「宇宙木」としての神話的シンボリズムに根差している」。
「おくりとどけしもの」という叙事詩の一部。
それから男は娘が横たわる洞穴へ入った
娘は身動きせずに横になっていた
しかしその目蓋だけはしばたかせていた
男はシーダーの衣を脱ぐとそれで娘を擦った
娘の目を醒まそうとしたのだ
しかし、魔術にかけられて娘は目覚めない。そして方法を知って解いて、洞穴に戻る。
男が目にしたのは、その女の骨ばかり
そこでシーダーの衣を脱ぐと
それを女の向こうとこっちへ動かした
女は生き返り、立ち上がった
女の体はすっかり汗をかいていた
「シーダーの樹皮から作った衣が一般的な衣装だった」。山崎は書いている。
シーダーの衣が、身に纏う衣服であると同時に、命を吹き込む力をもつことがわかる。衣と肉体とが、換喩的に機能して、性的な行為を含意する部分である。
シーダーの樹皮は、ハイダ・グワイ族の霊魂の衣装であり、身体そのものを指している。また、霊力そのものとして人と人を結ぶものだった。これは琉球弧でいえば、ブー(苧麻)と同じだ。
この思考のなかでは、性行為は霊力を交わし合うということが、実際の身体の贈与と授受を意味していると思える。ともあれ、なにゆえトーテムなのかということを琉球弧以外の例で初めて知ることができた。
おくりとどけしもの」の意味は、「吉凶をもたらす沖合いの礁(または波濤)だと種明かしがあって、第一部の物語は終わる。
これはハイダ族にとっての新石器時代の「あの世」のことを意味しているのかもしれない。
ハイダ・グワイのもともとの意味は、「世界の間の境界の島々」。
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