『自然認識の人類学』(松井健)
来間島では、サルカケミカンは「サルク」と呼ばれ、ナンテンカズラが「ビキ・サルク(雄のサルク)」と呼ばれる。サルカケミカンはミー・サルク(雌のサルク)だが、「ミー」は省略されることが多い。両者の共通点は、「鋭くて強い棘だけ」。つまり、サルクに関してはふつうは女性植物とみなされている。ススキは「カヤ」、あるいは「ミー・カヤ」で、イトススキが「ビキ・カヤ」。
来間島における生物の命名法に特徴的な「ミー」と「ビキ」をつけて対をつくる例は、植物と貝の場合についてだけ見出される。
採集は女性が行なうものであり、その意味で貝と植物は女性植物になっている。松井健は書いている。
「ミー」は、雌を示す。その一方で、一応その方名で呼ばれはするが、本来その名前で呼ばれるべき典型的なものではないとみなされている生物種は「ビキ・--」と呼ばれる。「ビキ」は雄を意味する。
魚の命名では、「ミー」「ビキ」の対立がないのみだけではなく、その語彙を含む方名が皆無。
ブダイは雌が「アカ・イラフツ」、雄が「アウ・イラフツ」。「雌雄が別々の魚であるかのように命名されている」。これはたまたま生物学的な雌雄と一致した例だ。松井も「島の人たちは同一種の雌雄の魚を、まったく別の種類と考えている」。
ヤギの場合、かなりの頻度で出現する半陰陽の個体は「ミー・ビキ・ピンジャ」と呼ぶ。タカ(サシバ)のうち眼がアカ(オレンジ色に近い色)く、体色が濃い褐色のものを「ミー」とみなす。
その他メモ。
来間島では、スクはスフ。四月ころ、テラジャ(マガキガイ)は「浅いラグーンに集まってくる」。
琉球列島で、タカラガイは「シビ」「スビ」と呼ばれる。この貝の名前は、「女性の性器」を指す隠語になっている。別の貝の場合もあるが、限られる。
与論では、大きなシビを「ウマ・シビ」という。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント