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2017/02/28

「日本最古の浦嶼子伝説」(水野祐)

 水野祐によれば、浦島伝説の最古のものは、八世紀に成立したとされる『丹後国風土記逸文』に見られる(『古代社会と浦島伝説』)。

 丹後の筒川の浦の嶼子が、不漁に会うが亀を得る。船のなかに置いて寝ると、婦人(おとめ)になっていた。誰かと問うと神女であると知る。誘われて海中の大きな島に着く。「目にみざりし所、耳に聞かざりし所なり」。神女は「亀ヒメ」で、浦嶼子は、「亀ヒメの夫」と言われる。夫婦の契りを結び三年が経つ。

 嶼子は、ふと「二親を拝みまつらむことを」願う。女娘、「玉匣(たまくしげ)」を渡し、再び会うために決して開けないように、という。嶼子は、眠りから覚めるとたちまち筒川に着く。村を眺めると人と物もうつろって知るものがなかった。尋ねると、三百年が経っている。

 嶼子は約束を忘れて玉匣を開いたので、再び神女と会うこともできなくなった。嶼子は、神女とのあいだで歌の贈答を行なった。

 常世べに 雲たちわたる
 水の江の 浦嶋の子が
 言持ちわたる

 大和辺に 風吹き上げて
 雲放れ 退き居りともよ
 吾を忘らすな

 分かることを備忘しておく。

 ・浦嶼子の伝承では、捕獲した亀が神女に化身する。
 ・誘われて海中の島に行く。
 ・島の描写は華美に彩られているが、特に竜宮を思わせる描写はない。
 ・海中の島にいた期間と帰ってみたら経っていた歳月は三年と三百年と記されている。
 ・玉匣を開いた浦嶼子は、年を取るのではなく、海中の島との回路が経たれる。
 ・ただ、神女とのあいだでは歌のやりとりがなされる。
 ・「常世」という言葉が使われている。

 水野はこの伝説についてコメントしている。

この伝説はわが国の海岸地帯の漁撈民の間に伝承されていた、海部の人びとの伝説であったと解される。

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