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2016/12/02

徳之島流刺青

 徳之島は、琉球弧のなかで突出して複雑な文様を生み出していた(参照:琉球弧の「針突き(tattoo)」デザイン)。この島でハンズキと呼ばれた刺青(tattoo)には、まだ奥行きがあるかもしれない。

 徳之島の手の甲の刺青は、この文様を基本要素にして、三つのタイプの文様が組み立てられていた。

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 左そのものが最も多く、次いで真ん中の系列、右の系列になる。どれも上の基本形を文様の要素に組み込んでいるのが分かる。

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 この基本要素は、尺骨頭部にも現われるが、尺骨頭部にはもうひとつ頻出する文様がある。

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 これは一見すると、上の基本要素とは異なるものに見える。この文様は右手に多く出現するので、左手の尺骨頭部文様と対応させてみる。

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 こう配置してみると、右の文様が左の文様の四つ角をいちど分離し、180度回転させて、十字の内側に食い込ませることで生み出されているのが分かる。つまり、このふたつの文様は、つながってるのだ。これは、ふたつが同じものであることを意味している。

 同様の成り立ちは、宮古島の手の甲に追加される文様についても見られた。

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 ただ、宮古島の場合、左の「トゲヤ」をひと筆書きすることで、右の「ハサミ」が得られたが、徳之島の場合、図形の分解と再構成が行なわれていて、ここでも徳之島が霊魂思考を発揮させているのが分かる。

 ここで重要なことに気づかされる。

 徳之島の尺骨頭部の文様の再構成と、基本要素を並べてみる。

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 ここで刺青は、「点・線」から「面」へと発達すると仮定すれば、左から右への文様の遷移を想定できる。

 これらが意味としては同じ文様だとしたら、徳之島の尺骨頭部と手の甲はどれも同じ文様のバリエーションだということになる。思い切って文様が生み出される順序を想定してみれば、下図が得られる。

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 基本要素を重ねた〔1〕は、手の甲で最も頻出する文様だ。それに次ぐ〔2〕は、基本文様の背景に四角形を持ち、〔3〕はふたたび起点の文様を包括している。

 驚くことに、手の甲だけでも30種類以上ある多様な文様はどれも「同じ」なのである。そして、これが何を意味するかといえば、起点のデザインが示すように「貝」である。これは、〔1〕の文様が「米の花」(三宅宗悦「南島婦人の入墨」)と呼ばれていることにも符合する(貝-太陽-花)。徳之島では霊魂思考によるデザイン化が突出している。しかし、徳之島でもやはり霊力思考が豊かなのである。

 こうしてみれば、宮古島を除く他島では、尺骨頭部の文様が左右で異なるのが原則なのに、徳之島ではその原則は壊れ、左右共通であることや、左右が逆転することも理解できる。要するにどれも「貝」なのだ。

 しかし、尺骨頭部は、左がトーテムの座であり、右が霊魂の座だった。それは何より重視される要素だった。その原則はどこへ行ったのだろう。

 それがつまり、手首内側の「蝶」なのではないだろうか。ぼくたちは、これまで尺骨頭部というより、手首が重視されてきたのではないかと仮説してきた。その考えにしがたえば、徳之島では尺骨頭部は左右ともトーテムの座であり、手首内側に霊魂の座を設けたということだ。

 そこで、徳之島文様の典型例を挙げることができる。

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 ここまできてようやくぼくたちは徳之島の刺青を理解するところまでたどり着いたことになる。徳之島は、基本要素を元にした組み立てという方法で他の島には見られない多種の文様を生み出した。それだけではなく、その配置においても最も重視された尺骨頭部の意味の組み換えを行っている点でも独自であり、まさに徳之島流ともいうべきデザインを開発したのだ。

 最後に、左手の尺骨頭部に現れるたった一例の文様を挙げよう。

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 これは何だろう。蟹あるいは、殻のないヤドカリに見える。これは「貝」から、蟹、ヤドカリへとトーテムが追加されていったとき、こうした文様も生み出された痕跡なのかもしれない。






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