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2016/06/01

「あの世へ行く路」(柳田國男)

 柳田國男は「あの世へ行く路」(「先祖の話」)のなかで、羽後の飛島のことを書いている。

 ここには、賽の河原がある。「川原とはいってもこれも岩石の荒浜であって、里から岡を越えて行く一筋の逕(こみち)があるばかり」。「ここが昔から島の人たちの、死んでから行く処となっていたことで、しかも村々の埋葬地というものは別な処にあるのであった」。

島には秀でた峰はない代りに、この賽の河原と相対して、海中に大きな岩が一つあり、周囲が崖になって登ることができぬのを、神聖の地として崇敬しており、そのまた正面には遠く鳥海山の霊峰が横たわっている。今はそういう言い伝えも残っていないが、おそらく精霊がこの浜からおいおい渡って行くものと信じられていたのであろう。

 柳田に倣って飛島の「あの世」を復元してみれば、それは鳥海山ではなくて、飛島の西の御積島(おしゃくじま)だ。鳥海山は、飛島からみれば、遠隔化された他界の位置にふさわしいが、言い伝えも残っていないのであれば、遠隔化されたのは海上の方位だったかもしれない。

 死者は、賽の河原の前にある大きな岩から、御積島へ行ったのだ。


 


『柳田国男全集〈13〉』

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