卵生神話(後藤明)
多良間島のぶなぜー神話はもう少し掘り下げられそうだ。多良間島の別の神話。
津波がやってきて人々が全滅してしまった。天の神が卵を七個持ってきて、鳥のようにそれを抱いて孵化しようとした。しかしなかなか卵はかえらず、腐ってしまった。再び七個の卵を別のところで抱いていると、男女七名が生まれた。そこでその七名の伴侶を天から降ろして夫婦にさせた。(佐渡山安公「ゆがたい 宮古島の民話」)
卵から生まれる神話は来間島にもある。
タヒティでは卵形の貝から生まれる。
神がみの始祖タアロアは、卵形の貝(pa'a ただし、殻、皮の意味もある)のなかにひとりでいる。ある日、タアロアは貝を割ってでてそれを天としてルミアと名づけ、また、あらたな貝をとって地とした。タアロアは地を夫とし、岩を妻とした。(別譚ではタアロアの体の各部分から自然現象が生み出された。)タアロアが神に乞うて人間が作られたのは、もっと後になってからである。(崎山理「オセアニア・琉球・日本の国生み神話と不完全な子: アマンの起源」)
ベラウではオオジャコが始祖になる。
大神ウエル・イアンゲズ(天の始祖)はないもない海をみて星を降らせ、アンガウル島とベリリウ島の間のルクスと呼ばれる海域に島を盛り上がらせた。つづいて、オオジャコを下し、このオオジャコから生まれたラトミカイクから人間の始祖となる女神オアブズが生まれ、つづいて女神トゥラン、ウアブが生まれる。
これらを見ると、卵から生まれることと、貝を割って出ることとは同じだと思える。
後藤明は書いている。
日本の南島には、土中誕生の神話が豊富に見られる。とくに宮古・八重山諸島に集中する。すでに見た八重山諸島の祖先神たるアカマター蛇は、洞窟や土中から這い出してきたものといわれる。これは海上他界とは異なった地下異界の思想が、南島に並行して見られたことを意味する。そして土中誕生は、台湾・高山族、東南アジア大陸部、またインドネシア東部の島々などで、竹中誕生と共存して分布する。土中誕生モチーフはさらに、原初大海の中にある岩の割れ目から出現する話を含め、ニューギニアから南太平洋まで続くのである。
卵生および土中誕生に共通するモデルは蛇と鰐である。蛇は永遠の生命を持つものとして人間に対置されるが、鰐は人間と等価の存在と見なされる傾向がある。
後藤は、蛇のいないポリネシアでやミクロネシアでは、脱皮の思想は蟹や貝をモデルとして語られるが、あまり顕著ではない、という。
貝から人間が生まれる、あるいは貝の次に人間が出現するというモチーフは、土中からのヤドカリの出現と同位相にあることになる。ただし、ヤドカリには蛇と同様の脱皮を見い出せるが、貝の場合、殻が更新されることに若返りを見ている点が異なるのだと思える。
人間がヤドカリと出会うためには風葬を要する。シャコ貝はそれに依らない。だから、サンゴ礁さえあれば、位相としてはシャコ貝はヤドカりと同位相ながら、ヤドカリより先である可能性を持つ。
ところで、シャコ貝が猿にやっつけられる昔話は、トーテムが人間を襲うというトーテムの零落形態なのではないだろうか。
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