パピルのピル(土橋寛)
土橋寛は、1965年の『古代歌謡と儀礼の研究』で、ヒルとヒヒルについて考察している。
ヒルは「太陽が光り輝くこと(ヒルメの神もその意)」、「風が突然強く吹くこと」、「草の葉が揺れ動くこと」。「蛭」「水?(虫+質)」をヒルというのは、水中をヒラヒラと泳ぐ姿によるものであろう」。
感覚的には何の類似も認められない、太陽の輝き、颯風の烈しい吹き方、鳥や蜻蛉の飛ぶ姿、草の葉の揺れ動き、さては刺激の強い味覚や嗅覚に、同じヒル、ヒヒルという語を用いているわけで、これはそれらの感覚の奥に感得されている霊力の観念の共通性によるものであろうと思う。
ヒルはおそらく霊力を意味するヒ(ムスヒ、クシヒ、マガツヒなど)を働かした動詞で、ヒラメク、ヒラヒラなどの語はその派生語であり、ヒヒルは「ヒ・ヒル」の意であろう。鳥や蝶の類がヒラヒラと飛ぶ姿に、霊力の活動を見た古代人の思惟は、ヒルという語の意味からも捉えることができるのである。
これはとても共感できる見解だ。「ヒル」は霊力思考が捉えた霊力の現われを指す言葉だった。
ここからは、パピル(蝶)という語の「ピル」の意味を見通すことができる。アヤパピルとは、太陽に照らされて怪しく揺らめく霊力。
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