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2016/04/11

「ビジュル信仰」(平敷令治)

 折口信夫は、「ビジュル」は「イビ」を語根にしていると書いた。

而も其中、最大切に考へられてゐるのは、井(カア)の神・家の神・五穀の神・太陽神・御嶽の神・骨霊(コチマブイ)などである。大体に於て、石を以て神々の象徴と見る風があつて、道の島では、霊石に、いびがなし〔神様〕といふ風な敬称を与へてゐる処もある。又一般に、霊石をびじゅるといふのも「いび」を語根にしてゐるので、琉球神道では、石に神性を感じる事が深く、生き物の石に化した神体が、沢山ある。井(カア)の神として、井の上に祀られてゐるものは、常に変つた形の鐘乳石である。此をもびじゅると言うてゐる。ある人の説に、びじゅるは海神だとあるが、疑はしい。家の神の代表となつてゐるのは、火の神(カン)である。
 香炉は、其置く場所を、臨時に変へることは出来ない。女は各自、必香炉を所有して居る。女には、香炉は附き物である。香炉がなければ、神の在る所がわからない。其ほど、香炉に対する信仰がある。形は壺の如きものや、こ穢い茶碗の縁の欠けた物等が、立派に飾られてある。香炉がある所には、神が存在すると信じて居る故、香炉が神の様になつて居る。拝所には、幾種類もの香炉がある。八重山のいびと言ふ語は、香炉の事であると思ふが、先輩の意見は各異つて居る。
 八重山には、御嶽に三つの神がある。又、かみなおたけ・おんいべおたけと言ふのがある。八重山のみ、いび又はいべと言ふ事を言ふが、他所のいびとうぶとは異つて居る。うぶは、奥の事である。沖縄では、奥武と書いて居る。どれがいびであるか、厳格に示す事は出来ないが、うぶの中の神々しい神の来臨する場所と言ふ意味であると思ふ。八重山の老人の話では、御嶽のうぶではなくて、門にある香炉であると言つて居る。即、香炉を神と信ずる結果、香炉自体をいびと言ふのである。処が火の神にも香炉がある。(「琉球の宗教」)

 霊石ビジュルは、「イビ」を語根にしている。イビとウブは異なっている。ウブは奥のことで、ウブのなかの「神々しい神の来臨する場所」が「イビ」である。この折口の考えを入口において、平敷令治の「ビジュル信仰」に入っていく。

 ビジュルはおおむね自然石。高さは30cm~60cm。材質は、「珊瑚石・鍾乳石および石筍・ニービヌフニまたは真石と呼ばれる第三紀砂岩の石核」。形態はくびれのあるものとないもの。「彫刻された陰陽石をビジュルとよぶ事例は稀だし。自然石のビジュルにも陽石状の石体は少ない」。

 「一般にビジュルは集落の近くの台地や木立あるいは洞窟の中に祀られている」。

 海岸沿いの村落では、海辺の木立や洞窟に祠地を設けることが多く、内陸部では丘や洞窟に祠地を選定している。わざわざ無人の小島にビジュルを祀った例(恩納のヨー島)や、浅瀬の岩かげに祀った例(水釜)もあるので、(中略)ニライカナイがビジュル信仰に投影されていることは明らかである。

 「沖縄諸島ではビジュルと石敢当とは別物である」。

 ビジュルを祀り始めた伝承は不明なところが多く、伝承があればほとんど、「海に浮いていた霊石や、啓示を受けて土中から掘り出した霊石を祀るようになった」。

ビジュルを持ちあげて、スク(あいごの稚魚)の豊漁を占う珍しい習俗は恩納にった。(中略)毎年六月二十五日にフトゥキヌメーから船を出してヨー島に渡り、ノロがビジュルを持ちあげた。石を重く感ずれば二度目にスクが寄る時には豊漁を意味したという。
寄り石の場合は”寄り清ら”寄り上げ”、土中から出た石は”押し明け””スデル””ワライ”などと命名されていた。(中略)権現と呼ばれていたものの、石体に表象された観念はニライカナイから訪れるあるいは大地からスデル(顕われ出る)セヂ高きもの、という固有の観念であった。

 この平敷の考察からは、ビジュル信仰の初源のあり方として、サンゴ礁成立以降にその発生を求めることができるように見える。寄り石と土中からという出所は、他界が遠隔化される以前のニライ時代の思考の産物だ。ヨー島は、恩納のシマにとってのニライ時代の他界である。

 ニライ時代     遠隔化される以前の他界
 ニライカナイ時代 遠隔化されて以降の他界

 折口信夫が「生き物の石に化した神体」と書いたのは、とりわけ重要で、久米島のスク石などは、スクの化身とみなされたのだと思う。

 また、イビをウブの転訛と見なしたくなるが、折口の「イビとウブは異なっている」という理解を踏まえれば、区別をしておいたほうがよさそうだ。しかし、このア行とバ行の語の組み合わせは、どうやら霊力の高いものであるようだ。


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