『母系社会の構造―サンゴ礁の島々の民族誌』(須藤健一)
琉球弧の神話は、性交と出産の認識を受容したあとの母系社会のものだということが示唆されているが、その際の性の認識について、知ることができた。
トロブリアンドの性認識は、オセアニアで普遍的なものではない。ミクロネシアに限定しても、性交と生殖を関係づける社会はかなり存在する。
たとえばサタワル島がそうだ。彼らは、「男が来て女と寝て、血を出してやると女の腹のなかに子どもができる」と説明する。「血」は精液のことで、禁忌語なので、「血」と表現する。血は、女性の体内で「骨」をつくる。女性は、「子どもの肉をつくる」。
女性の腹のなかで男性の血から子どもの骨格ができると、女性の月経がとまる。
つまり、男性は子供の骨格をつくり、女性は子供の肉をつくる。
島人は、「おまえの血はどこか」、「あなたの肉は誰か」と質問する。この場合、「血」は、父方の母系集団を聞かれていることになる。「血の関係」という場合は、基本的に父-子という二世代間の血縁関係を意味していて、父系的に系譜関係をたどる性質のものではない。
性の認識を受容すると、子供の身体に対して「骨」への寄与が認められるわけだ。トロブリアンドは、母方から子供の肉体は授かるが、サタワルでは、骨は父、肉は母という分業が発生する。しかし、それは母系社会の構造を解体することにはなっていない。
グゥンは、「形のある実体で、グゥンを宿している人間と同じ容姿をしたものとして語られる」。グゥンは、「グゥンの家」に住んでいて、それは腹のみぞおちのある腹部にある。グゥンは身体から遊離し、生活圏だけではなく、別の世界へもゆくことができる。遊離が長いほど健康を害し、再帰しないと死にいたる。
著者の須藤健一は、これを「霊魂」と訳して説明しているが、霊力がそのまま霊魂に同致する形で一元化されているのが分かる。
他界について、須藤が図解しているので、それに頼る。
「南の島」アユルは、「入江の多い島で、天上世界と同様、食べるものの豊かな理想郷としてイメージされている」。これはすでに実在の島から離れていて、サタワルが生と死の分離以降の段階にあることが分かる。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント