母原としての|N|音
ぼくたちは、「沖の島」、「奥武」、「ユナ系」名称について、いくつかの想定をしてきた。
たとえば、
1.黒島(クル)
patiruma → hatiruma → katiruma → kairuma → kairua → kuru
[p→h, h→k,tの脱落,mの脱落,ai→u,ua→u]
2.オボツ
awa → awu → abu → nbu → ubu オボツ(ツは格助詞「の」として)
3.ザン(zan) ジュゴン
・yunanuiyu → dunanuiyu → zunanuiyu → zunanuiu → zananuiu → zyanauiu → zyan → zan
などだ。
「ん」(|N|)音の潜在的な存在の意味は、たぶん多重母音(母音の積み重ね)をあらわしているにちがいないとおもえる。(「語母論」)
東北語や西南語の語頭にきたばあいの|N|音は、a・i・u・e・oのような母音要素よりもさらに母原的なものではなかったろうか。(「脱音現象論」)
(前略)語と語のあいだ、また語中や語頭、語尾に単音化や縮音化や無音化が、また逆に、反単音化がおこったりすることは、ばあいにより当然ありうると考えられる。そしてその極限で語頭、語尾の|N|音がうまれることも肯定できそうな気がする。(「脱音現象論」)
これまでの例のなかでいえば、同じ意味を現わす単語のなかで、他と異なる音韻にしようとする場合、母音間の移動は奔放と思えるほど、a、i、uの間を行ったり来たりしている(厳密化のためにはこうは言ってはいけないのだろうが)。それも特徴のひとつに挙げられるかもしれない。
多重母音の場合、語尾でも|N|音化は起きる。
また、|N|音が「母音要素よりもさらに母原的なものではなかったろうか」と吉本が言うことを、ぼくたちは、「nbu → ubu」の転訛のなかに見ている気がする。あるいは、これは「abu → ubu」でいいのかもしれない。
4.慶良間島(ギルマ)
patiruma → hatiruma → atiruma → agiruma → giruma
[p→h, h→k,k→g,]
「竹(take)」が、「tagi」となるように、母音間の|k|は|g|となる。
5.古宇利島(フィフィ)
patiruma → hatiruma → hairuma → haiuma → haiua → hui
[p→h, tの脱落,mの脱落,rの脱落,ua↓,a→u,]
これらの語音に耳をかたむけながら、わたしたちが感じることは、それとなく自然の景物のなかに飛び交っている自然音の、とても近くにあるという印象だ。自然音を擬音化したというのではない。景物から自然に発せられた音を切片のように取集めてつくられた印象といった方がちかいのだ。ここで想像をひとげれば、こういう言語の特徴は、景物や、景物や天然現象を擬人化し、その景物や天然の発音する兆候を言語のように聴くことができる特質につながっているようにみえる。(「語母論」)
古宇利島の「hui」は、ここでいう自然音の近くにまで収斂した例だと考えられる。
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