« 濁音の同一と等価 | トップページ | おのころ島と淡路島 1 »

2016/03/13

『呪術・科学・宗教・神話』(マリノフスキー)

 これまでと同様、マリノフスキーの記述は、人類学の知見というより、ワイルド琉球弧を知る手がかりを得るための貴重な資料だ。

(トロブリアンドの-引用者)漁は、内海にあう礁湖の村々では毒を使った方法で簡単にでき、ほとんど外れがなく、危険を伴わず確実に多くの成果をあげるのに対して、外洋の沿岸では危険を伴い、魚群が予め出現しているかどうかによって水揚げが大きく違ってくる。ここで重要なのは、礁湖の魚では完全に自分の経験的知識と技術を頼りにできるので呪術が存在しないのに対し、外海の漁は危険や不確実さに満ちているから安全を確保し良い結果をもたらすために呪術的な儀礼が発達していることである。

 「サンゴ礁は考える」をテーマにしている者にとっては、これは願ってもない情報だ。トロブリアンドの再生にも、サンゴ礁は大きく寄与しているのだと思う。十分条件ではないにしても。

 呪術の効力の信仰に関する三つの要素。

 1.音声的な効果。風のうねりや雷の轟き、荒れ狂う海、様々な動物の鳴き声のような自然界の音の模倣。

 2.欲望の対象となったものを呼び覚まし、特定し、あるいはそれに対して命令を下すための言葉の使用。

 3.神話のなかの、呪術を与えてくれた先祖や文化英雄への言及。

 これを見ると、1が呪術の祖形であると思える。言い換えれば、残された呪術のなかで、1に該当する箇所は古形に属することになる。

 起源神話によれば、世界には最初地下から人々が居住しはじめた。地上と似た生活をしていた。住民たちが「穴」あるいは「家」と呼ぶ起源の場所。

 洞穴、木立、岩山、露出した珊瑚、泉、入江の先端。

 そうした「穴」から、最初の人間が出現する。地下からもたらされた最も重要な贈り物は、決まって呪術。

 首長の家は、露出した珊瑚や岩山が目印となっている起源の場所に近い。

 トロブリアンドでも、永遠の若さを失った理由は、近親相姦への接近として語られている(p.173)。そして、その前に、「彼らが初めて地上に現れたときも、この能力は失ってはいなかった。男と女は永遠に若く生きられたのだ」、と書かれている。

 これは重要な箇所だ。ということは、トロブリアンドで地下の他界を持ったとき、まだ、「死」の認識を持っていなかったのだ。考えてみると、この順序は妥当にも思える。

 ミラマラが始まった理由も神話で語られている。

キタヴァの一人の女が、妊娠している娘を残して亡くなった。娘には男の子が生まれたが、その子にやれるだけの母乳が出なかった。そこで娘は、死にかけている隣島の一人の男に、精霊の島にいる母親が孫のために食物を持ってきてくれるように伝言を頼んだ。母親の精霊はかごを精霊の食物で満たし、次のように泣き叫びながら戻ってきた。「だれの食べ物を運んでいるのかだって。孫息子の食べ物で、これから与えに行くんだ。孫に食べ物をやりに行くんだよ」。精霊はキタヴァ島のボマゲマ(Bomagema)海岸に着くと、食物を下ろした。精霊は娘に語りかけた。「わたしは食べ物を持ってきた。男がそれを持ってくるように言ったんだ。でも、わたしは弱いんだよ。みんなが、わたしを妖術師と間違えないか心配なんだよ」。そして精霊はヤム芋を焼いて、孫息子に与えた。精霊は灌木の中に入り、娘のために畑を作った。しかし娘は、戻ってきた精霊の女妖術師のような姿を見て怖くなった。娘は精霊に、立ち去ってくれるようにいった。「精霊の国であるツマへ帰っておくれ。人々は、あなたが妖術師だというだろうから」。精霊の母親は文句をいった。「どうして、お前はわたしを追い払うんだい。わたしは、お前達と一緒に住んで、孫のための畑を作ろうと思っていたんだよ」。娘は、次のように答えただけだった。「行っておくれ。ツマへ帰っておくれ」。そこで老女はひとつのココ椰子の実を取り上げて半分に切り、点のない半分を娘に与え、点(eyes)の付いた半分を自分で取った。精霊の母親は娘にこう言った。自分やほかの精霊は年に一度、ミラマラの間に戻って来て村の人々を見るが、自分達は人々には見えないままだろうと、そしてこれが、年に一度の祝祭が現在のようになった理由なのだ。

 やはり、死者との共存の矛盾が、生と死の区別の契機になっている。この神話では、それは、穢れの観念の発生として語られているように見える。

 今回もまた、ありがとう、マリノフスキー。


『呪術・科学・宗教・神話』

|

« 濁音の同一と等価 | トップページ | おのころ島と淡路島 1 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87956/63046503

この記事へのトラックバック一覧です: 『呪術・科学・宗教・神話』(マリノフスキー):

« 濁音の同一と等価 | トップページ | おのころ島と淡路島 1 »