「魚になった木の葉たち」(秋道智弥)
ミクロネシア、サタワル島の魚の増殖儀礼が面白い(秋道智弥「魚になった木の葉たち」『季刊人類学』1989)。
魚の増殖儀礼は、カトー・イークと呼ばれ、集団的ではなく秘儀的に行なわれる。秘儀を行なうのは呪文と知識を習得した人、サウ・ロン。酋長がコウと呼ばれる贈与(ロープ、腰布など)を行なうと、儀礼が行なわれる。カトー・イークは、特定の呪文と呪薬(サフェイ)が用いられる。
魚を呼ぶためのサフェイは、呼ぶべき魚を何種類かの植物を用いて模倣的につくり、木の葉の袋に入れて、ココヤシ葉製のバスケットに入れる。
サフェイの入ったバスケットは、潮流に流れないように上から重石をしてリーフの内側の浅瀬に沈められる。サフェイを沈めた場所に木の棒を一本立て目印にする。そこは聖域として、航行、水浴、排便は禁止される。
・流木のサフェイ(名称として24種類、区別されている)
この植物の枝や根の部分が利用される。
・流木漁のサフェイ
魚の形に応じて、類似した形の木の葉が用いられる。樹皮であることも。
・カツオとマグロのサフェイ
筋肉、骨、眼など、11の部位に対して7種類の植物が利用される。
・魚の餌に対するサフェイ
タカサゴ:ミズガンヒの葉を多く集めて使う。
プランクトン:ココヤシの実の生育段階でもっとも若いものを使う。米粒より少し大きい。これを数十個。
ハリセンボンの幼魚:アラの実を5~10個。アラの実のトゲが、ハリセンボンに似ていると見なされる。
ウジを集める。カツオやマグロが海面上で群れをなしている状態に似ていると見なされる。
「流木漁」は、南からやってくる。「カツオ・マグロ」はノモイ・ラタックという海域から来ると考えられている。ラタックは東にある特定の島とされている。「サンゴ礁の魚」は、海底にあるファノ・サットと呼ばれるカヌー小屋からもたらされると考えられている。それは底釣りで利用する外洋のさらに深いところにある。
いったん、木の葉が魚に変換され、そののち島にもたらされる。この移行のあいだ、4日間、漁撈は控えられる。
この、似ているものをつなげていく霊力思考のさまが楽しい。サンゴ礁の魚がもたらされる外洋の深いところにあるカヌー小屋は、琉球弧でいえばニライそのものだ。
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