「沖の島」の系譜
地名における「沖の島」の系譜は、七島(cf.「沖の島」七つ)に加えて、池間島も挙げることができる。
この八を、地名としての「沖の島」として、音韻の変化を捉えてみたい。崎山理によれば、オーストロネシア語の祖語系(PAN)の母音は、a,i,u,ə とされているので、琉球語の三母音発音でアプローチする。起点に置くのは、波照間島(パティルマ)。
1.加計呂麻島(カキルマ)
patiruma → hatiruma → kakiruma
[p→h, h→k]
2.鳩間島(パトゥマ)
patiruma → patiuma → patuma
[rの脱落, iu →u]
3.来間島(クリマ)
patiruma → hatiruma → katiruma → kairuma → kurima
[p→h, h→k, tの脱落, ai →u]
4.多良間島(タラマ)
patiruma → hatiruma → atiruma →tiruma → tarama
[p→h,語頭のhの脱落,語頭のaの脱落,i →a,u→a]
5.慶良間島(ギルマ)
patiruma → hatiruma → atiruma → agiruma → giruma
[p→h, 語頭のhの脱落、語頭のaの脱落,t→g,]
6.池間島(イキマ)
patiruma → hatiruma → atiruma → agiruma → ikiuma → ikima
[p→h, 語頭のhの脱落,t→g,g→k,rの脱落,a→i,iu→i]
7.古宇利島(フィフィ)
patiruma → hatiruma → hairuma → haiuma → haiua → hui
[p→h, tの脱落,mの脱落,rの脱落,語尾uaの脱落,a→u,]
つまり、この場合、古宇利島とは、沖の、そのまた沖の島という意味だ。
変化を整理すると、
1.子音の変化
p→h(6)
h→k(2)
t→g(2)
g→k(1)
2.語頭の脱落
hの脱落(3)
aの脱落(2)
3.母音に挟まれた音の脱落
tの脱落(2)
mの脱落(1)
rの脱落(3)
4.母音の変化
a→i(1)
a→u(1)
i →a(1)
ai →u(1)
iu→i(1)
iu →u(1)
ua→u(1)
hの脱落は、崎山も「音変化の法則」で指摘しているので、ありうるのが分かる(「日本語の混合的特徴―オーストロネシア祖語から古代日本語へ音法則と意味変化」)。どう理解していいのか、よく分からないのは、母音の変化だ。多くは、子音の脱落にともなって多重化しているものなので、母音だけ取り出して考えるべきではないのかもしれない。それにしても、自在にもみえる三母音化の行き交いは戸惑う。
このなかで、不明点の強弱で分類すると、
1.不明点・弱
加計呂麻島、鳩間島
2.不明点・中
来間島、慶良間島
3.不明点・強
多良間島、池間島、古宇利島
となるだろうか。しかし、それによりも「沖の島」としての地勢が同一であるのに目が行ってしまう。島名の幅が生まれるひとつの要因は、差異化の意識だと思える。
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