『神と巫女の古代伝承論』(保坂達雄)
保坂達雄の『神と巫女の古代伝承論』(2003)によって、神の行路を確かめてみる。
1.新城島のアカマタ・クロマタ。
・西表島の古見岳を遥拝。海の彼方のニーラシクの神を古見岳から迎える行為。一方、ニィルピトゥのアカマタ・クロマタは、ニーレイスクという手の届かない深い土の底から生れる、とも。
2.小浜島。
・出現するナビンドゥは、海に通じると同時に、島を見下ろす大岳の山頂に達するとされる。山頂ではかつて雨乞いの儀礼が行なわれた。
3.西表島古見。
・海から迎える。クロマタは、前良川の対岸にある三離御嶽の上方のムトゥから出現し、橋を渡って村中に来訪した後、元の方向に帰る。アカマタ・シロマタは、別のウムトゥの森から出現して、来訪を終えると、集落の外れを流れる流れる後良川の河口をピニシ島に船で渡った後、そこから水中を歩いて、フカリ山の山中に消えていく。
4.石垣島宮良。
・ニローカンは、東方の森から出現する。ところが、もとは海岸寄りにあったナビンドゥという洞窟だった。ここは、地下を通ってオモト岳の頂上まで通じていると信じられている。
5.裏石垣桴海。
・マユンガナシは、海岸の洞窟から出現し、於茂登岳の神への儀礼を行なった後、海へ帰っていく。
6.加計呂麻島嘉入
・海彼のネリヤから来臨し、ウボツヤマにいったん着いてから、広場に降りてくる。海岸で神送りされる。
7.加計呂麻島木茲
・オボツガミは、ウボツヤマの樹木か石の依り代に降臨した後、神道を採ってトネヤに降りてくる。
8.加計呂麻島武名
・彼方の海から水平に飛来して、村の背後にそびえるオボツ山の山頂に留まり、招請によって山の尾根を通って村へ来訪する。
9.加計呂麻島の於斉
・海から迎えられたネリヤの神は、オーホリの日まで、アシャゲに近いオボツヤマのこんもりした森に滞在する。
10.請島請阿室
・ネリヤの島から来た神は、島の東の木山島にいったん足がかりにして村へ来て、同じ経路で帰る。一方、オガミヤマに天降り、神道を通って村に来臨した後、東端のモリヤマに上ってから海岸で神送りされる。その後再度、モリヤマに上り、そこでも神送りされた。
11.古宇利島
・こんもりしたナカムイに祈願し、地面に描かれた船を七回廻る。後半は、海から迎えた他界の神を海上遥か彼方に神送りする。
12.国頭謝名城
・山の神と海(ニライ)の神へのお迎えを祈願。
13.国頭安田
・山から来訪神が降りて、海へ纏っていた草木類を流す。
14.国頭奥
・山から来訪神が降りてきて、海に送る。
これらの神の行路を整理してみる。
八重山では、地下の他界は強く意識されている。それとともに山の他界も展開されている。請島には、地先の島の他界があり、同時に山を持つ。西表島古見も地先の島の一種だ(川向うの例だと言える)。奄美から国頭にかけて、山が目立つ。
これらの地下、山、地先の島が、地下深く、あるいは海上への遠隔化した。ただ、油井岳や湯湾岳をオボツヤマとする集落の場合、遠隔化された他界は山である可能性を持つと考えられる。
著者の保坂は書いている。
したがって、海と山と地下の他界が円環的な構造をなしているとか構造的な連関をもっているとするこれまでの解釈は、複数の高いを前提にしている点で必ずしも正しい理解とは言えないように思えわれる。それ以上に他界観を海上他界観、山上他界観、地下他界観の三種に分けて、三者の間の前後関係を論じてきた従来の研究は大きく検討されなおされなければならないであろう。
これに対する考え方はこうだ。
地下、地先の島、山の他界が、地下、海上へと遠隔化した。前後関係は、行ける距離にある他界が先にあり、行けない距離にある他界が後になる。海上、山上、地下それぞれは順番が決められない。
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