みみらくの島とニーラスク
「根の国の話」で、柳田國男は書いている。
ただここで一つだけ説き立てずにおかられぬことは、MN二つの子音の間隔が、以前は今よりもずっと近く、しばしば通用せられていたらしいことで、(中略)仮にミミラクなどの終りのK子音が、島を出てから後の追加だと決しても、ニーラがミーラとなるなっているまでの変化は、言葉そのものの性質と解することができる。ただミミラクと二つ重ねたのは異例だが、現在の地名は「三井楽」と書き、また古く『続日本後記』にある旻楽はミンラクとも訓まれ、そのうえにまたあの世を意味する言い伝えも古いので、断定はまだ早いとしても、是は亡き人の往って住むという。この世の外の隠れ里、おそらくは遥けきを意味する大昔の根の国であり、同時に神と祖先との今も住む本つ国の言い伝えが、まるまる消え失せてはいなかった例証の一つとまでは、推定してよいかと思う。
一方、中本正智は『日本列島言語史の研究』(1990)のなかで、『おもろさうし』のニライをあらわす語が、
「みるや」、「にるや」の対語と「かなや」で表されることから、
miruja → niruja → niraja → niraji → nirai
という変化を想定している。
そして、「み」が土に通じることから、ミロヤは「土の屋」、カナヤは「日の屋」と解した。
琉球は多島地域であり、それぞれの島が、四面海に囲まれていて、朝の太陽は水平線の彼方から空と海を真赤に焦がして上ってくる。島人にとって地の中にあった「土の屋、日の屋」が永い歴史のうちに次第に水平線の彼方に推移していって、現在のような意味に落ち着いたとしても伏木はない。
ここで思うのは、ミルヤ・カナヤが、仮に「土の屋」、「日の屋」だとして、「日の屋」は、遠隔化した他界に相当しているのではないだろうか。
ミルヤ 地下・地上の他界
ミルヤ・カナヤ 海彼の他界
である。
ミミラクは、柳田が地名として挙げている、三井楽を採ると、ミイラ・スクのs子音脱音とすれば、つながることになる。
五島列島、福江島と措定されている「みみらくの島」が、ニーラスクと通じているのには驚くし、柳田はすでにそれを指摘していたことにも、驚く。
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