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2015/12/18

ザン女房譚

 宮古島狩俣の話。ただし、谷川健一によれば同種の説話は、奄美大島まで分布している。

狩俣の人が釣をしていると、浜にきれいな魚がいた。それを捕って飼っていたら美しい女になった。そこで夫婦となって、二人の間に子供ができた。夫婦喧嘩のときに、男は妻にむかい、おまえは狩俣の浜からとってきた魚で、もとは人間ではないとののしった。するとつまは、それなら私は海にかえるといって浜に降りていった。妻は腰まで浸かりながら「ほんとうにいってよいのか」と夫にたしかめた。夫は「いきなさい」といった。喉まで潮に浸かったとき、ふたたび未練げに夫にたずねた。夫はおなじ返事をした。すると妻はザンの魚のすがたになって、海の彼方に去っていってしまったという。

 この説話では、女がご馳走をつくる(排泄物をご馳走にする)でもなく、だから男が驚くこともなく、女が異類と化して子供を産むでもなく、やはりだから男が驚くでもなく、ただの喧嘩によって別れることになっている。もともとの伝承が持っていただろう核心は消えてしまっている。ただ、別れの悲哀さだけが強調されている。しかも、悲哀を抱くのは、魚の方であって男ではなく、子供は登場もしない。

 去る側に託された悲哀は、共同体の悲哀を代弁しているようにも響いてくる。

 

『神・人間・動物―伝承を生きる世界』

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