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2015/12/29

ヨナタマ伝承と明和の大津波

 酒井卯作の『琉球列島民俗語彙』をみると、ヨナタマは、宮古島では「人魚・ジュゴンのこと」とある。

ヨナタマは南島では常に伝説的である。宮古島ではこれにふれると不漁になるといい、2人いるときは、1人はこれを魚と見、1人は人間に見えるという。

 ところが、出典としている「大森資料」をみると、伊良部島の項で出てくる。

 ユナイタマ(人魚)
人魚に触れると不漁になる。ユナイタマにはふれないのがいちばんである。二人をる時は一人は魚と見、他の一人は人間に見る事がよくあるといふ。(大森義憲「諸国叢書 第13輯」)。

 大森が沖縄を訪れたのは1935(昭和10)年とされている。ヨナタマの伝承が記された『宮古島旧史』は1748年にできたとされているので、18世紀には「ヨナタマ」の他に説明はなかったのに対して、20世紀には「人魚」が当てられている。ヨナタマに「人魚」という概念を当てはめたのだ。

 ヨナタマはサンゴ海の霊力を象徴する精霊だ。これが、はっきりとジュゴン(ザン)と名指されなかったのは、ザンがトーテムにはならなかったことを示しているのかもしれない。あるいは、津波を引き起こすものとしてジュゴン(ザン)を名指すには、ザンがあまりに似つかわしくないというためらいがあったのかもしれない。

 また、南太平洋の神話をみると、「洪水」を引き起こすものには、蛇、鰻、鰐が出てくる。伊良部島でも蛇、鰻として語られても不思議ではないのに、そうならなかったのは、サンゴ礁の海ではジュゴンのほうがリアリティがあったということかもしれない。とにかく、海の霊力の象徴をこの神話に登場させるということだけは確かに伝わってくる。むしろ、それを伝えたいものとしている。

 明和の大津波は、1771年。だから、ヨナタマ伝承はそれ以前のものだ。明和の大津波によって伝承の信憑性は強化されたのであり、明和の大津波によってこの伝承の記憶が呼び起こされたのではないことになる。

 

『琉球列島民俗語彙』


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