『アメリカの世紀は終わらない』(ジョセフ・ナイ)
書名に『アメリカの世紀は終わらない』とあるけれど、原題は、"Is the American century over?" なので、邦題は著者のジョセフ・ナイの結論でもあると知るまでは、日本的希望のように思えていい気がしなかった。
中身については、ナイは妄想的でも攻撃的でもなくいたって冷静なので説得力を感じる。アメリカが衰退するわけではないという根拠はたくさん提示されているが、ひとつだけ圧倒的だと思えるのは、移民だ。「多くの先進国では今世紀のこれから先、自在不足に見舞われる」が、「アメリカの人口は二〇一〇年から二〇五〇年にかけて四二パーセント増え」る。
アメリカの社会は外の世界に開かれ続けており、移民の受け入れによって自らをまた新たなものにしていくことが他国よりもうまくできている。
このことだった。
中国に対してはどうか。
中国の軍備増強というトレンドが続く中で、アメリカがこの地域の同盟国に安全保障上の安心感を与えつづけようとするなら、アメリカ側は、中国が進める領域拒否の戦略-自国のそばに米軍が接近し、自由に行動することを阻止する戦略-に対する戦力面での弱みを消さなければならない。そのための投資はかさむだろう。中国が軍事力の配備などであまりに攻勢を強めると、近隣諸国は対抗して連合を組む。結果的に中国のハード・パワーもソフト・パワーも弱めることになる。
アメリカ、日本、インド、オーストラリアおよびその他のアジアの国々は、中国のパワーが拡大し、攻撃的な行動に出る可能性に備えつつ、互いに協調して、中国を責任ある行動へ仕向けることができるはずである。
中国の台頭にそのように反応することは(太平洋の東側にアメリカが引っ込むこと-引用者)、関係国のアメリカに対する信頼を粉々にする。そして、この地域の国々をアメリカと一緒になって中国に対抗させるどころか、むしろ、勝ち馬となった中国の側に追いやってしまう。
中国を封じ込められるのは中国自身だけである。
いたずらな煽りも思わせぶりな言辞もなく、的確な見解に思える。台湾や沖縄への言及はなかった。
日本に対する言及はこうだ。
日本が近代化と民主化に成功したことや、海外で人気の大衆文化は、ある程度ソフト・パワーに貢献するだろうが、自国民中心主義的な姿勢と政策は、むしろ足を引っ張る。
これは、どうかそこに陥らないようにと、エマニュエル・トッドも指摘していることだった。ここはもっとも立ち止まらされるところだが、そう見えるということは両氏の言及でよく分かった。
中東に関しては、こう書いている。
アメリカは侵攻や占領に手を染めるべきではない。ナショナリズムが盛り上がり、ソーシャル・メディアなどによって多くの人々を動員できる時代にあっては、外国勢力による占領は鬱積した恨みの感情を育ててしまう。
アメリカの一知識人がこういう認識を持っていることは心にとまる。沖縄の現状は、日本政府よりはアメリカの方が聞く耳を持つのではないかと思わせるところだ。
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