大陸に引き寄せられた小さな島嶼
島尾敏雄の「回想の想念・ヤポネシア」のなかのくだり。
ヤポネシアというのは、そばの南太平洋周辺にミクロネシアだとか、メラネシア、ポリネシア、インドネシアなどがありますね。われわれは、これまでいつも大陸の方ばかり眺めてきたような気がするんです。地図を見ても、大陸を真中に置くから、日本はもう大陸に振り落とされまいと、はじっこの方にしがみついている形に見える。そういう視点からだけじゃなく、半分は太平洋に面しているんですから、そうした側から日本を見れば、(中略)南太平洋のもうひとつの一つの島々のグループだというふうな気がするわけです。(島尾敏雄「回想の想念・ヤポネシア―沖縄・奄美・東北を結ぶ底流としての日本」1970)
ぼくには馴染み深い文章だけれど、45年前に発された言葉は、まだ新鮮だ。大陸の方ばかり目を向けているのは、今も変わらないのだから。もっとも、大陸の方がうるさいのだから、仕方ないとも言えるのだが。
あらかじめこういう視点で臨んだわけではないけれど、文字を持たなかった琉球弧の島人の精神史は、はからずも島尾の視点と共鳴することになった。
吉本隆明は、こう書いている。
ニーチェがインド・ヨーロッパはインド・アジアの広大な大陸のひとつの岬にほかならないと書いたひそみに習えば、ヤポネシアというのは、環太平洋の多島性の一列島が押しつぶされそうな遠くまでインド・アジア大陸に引き寄せられた小さな島嶼のひとつにすぎないと言ってもいいかも知れないと思う。(「島・列島・環南太平洋への考察」)
これは、先の島尾の文への応答にもなっているが、これまでの探究は、これもはからずも、この文章のイメージに響きあうものになった。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント