時間と空間の起点としての「穴」
トロブリアンドでは、最初の女性の祖先は、原則として「大地の穴から出てきた」。
トロブリアンドの亜氏族はすべて、自分たちの祖先がはじめて日の光をあおいだ最初の場所を指摘できる。サンゴの露頭、泉水の穴、小洞穴が、ふつう初めの「穴」であり、彼らの言い方を借りれば、最初の「穴」または「家」である。このような穴は、まえに述べた禁断の木の群れに囲まれていることが多い。多くは集落をとりまく森のなかにあり、少数は海岸近くにあるが、耕地には一つもない(p.94)。
つまり、「穴」とは起点の場所だ。また、「穴」はある意味jで代表的で象徴的な言い方で、そうではない場所もありうる。「サンゴの露頭」はそれを表している。「小石の山」(cf.「トロブリアンドの「穴」に関する注」)というよりリアリティがある。
「穴」からの出現は、地下他界の存在を暗示している。しかし、「サンゴの露頭」や「小石の山」等の例は、同時に地上の他界の存在を示すものかもしれない。
また、「呪術はつねに存在してきたものとして伝えられてきた(p.353)」。ある呪術は岩からうまれたことになっているし、カヌーの呪術は、「地面の穴から出てきた人間といっしょにもたらされたことになっている(p.354)」。
つまり、「穴」とは起点の場所であるだけでなく、起点の時間を意味している。
「穴」に境界を設け、「この世」と「あの世」を区別するということは、時間と空間のはじまりという観念を獲得したことと同義だ。これは、生と死が移行として捉えられたなかで、「区別」の段階に入り、一方向に進む時間観念は明瞭になったことを意味している。
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