« 『日本をダメにしたB層の研究』 | トップページ | 『学術書を書く』 »

2015/10/01

『第3次世界大戦の罠』(山内昌之、佐藤優)

 グローバリズムの広がりというポスト・モダン、米、ロ、中、独の帝国主義的傾向はモダン、イスラーム国(IS)などの動きはプレモダンのように見える。この、錯綜した複雑な状況には、「地政学」という補助線を入れると、整合的に見えてくる。というのが、佐藤優による本書のオリエン。それを開陳している山内昌之の指摘を抜粋していく。

・イラク、シリア、イエメンで繰り広げられているアラブ世界の分裂と戦争の二側面。

 1.「国民国家」の枠組みで競合する各派間の内戦。
 2.中東地域という次元での代理戦争。それは、サウジアラビアとイランとの地域的競合の深化と関連。両国の競合は、宗派(スンナ対シーア)、民族(アラブ対ペルシア)という綾によって目立つ。

・補足。

 1.中東でのパワーシフト。アラブとイスラエルの問題が二義的になってきた。代わって、クルド民族の自決権と独立国家宣言が現実味を帯びてきた。イラク戦争の結果、KRG(クルド地域政府)が北イラクに成立。「国家を持たない最大の少数民族の国民国家」の形成。

 2.スンナ派とシーア派の紛争の深刻化。

 3.「アラブの春」の挫折による国内対立の深刻化。「内戦のなかに内戦が入れ子となる厄介な二重戦争、多重戦争が進行する複雑さは中東とくにアラブの世界以外には見られない」。

 イラクは、クルド、スンナ、シーアに分解しつつある。イラクとシリアの国境の無効化。サイクス・ピコ協定の終焉。

 結局、現在の構図は、スンナ派対イスラーム武装組織ISと、シーア派の重要な拠点国家イランのすぐれた実戦経験と新鋭装備を持つ革命防衛隊との対立として単純化できることになります。

 また、イランが戦術核を持てば、パキスタンの核がサウジアラビアに渡る可能性がある。それは、場合によっては、他の湾岸諸国でも核をシェアする状況が実質的に起こる危険性を喚起する。トルコも同様。中東の核拡散減少の危惧が高まる。NPT(核拡散防止条約)体制が機能しなくなる。「それが中東にまつわる世界最大の悪夢」。

 グローバルな次元でいえば、地政学とエネルギー安全保障における最大の脅威は、ほぼすべての国と人びとにとってイスラーム国(IS)になることは間違いない。

 中国について。

 本当に中華帝国の歴史でもいまの中華人民共和国は、特異な国だと思います。中国共産党というマルクス主義を曲りなりにも存立の根拠としている集団がマックス・ウェーバーの警告した「カジノ資本主義」以上の腐敗と特権を享受する資本家や投資家の集まりになっているのですから。

 東シナ海をめぐる係争が収まるには、地政学と戦略論でいえば、中国が内陸に抱えている問題との相関が大きい。新疆ウイグルで緊張が生じると、ロシアや日本との友好や中立を図らなくてはならない構造にある。

 中国からみると、第一列島線は、「逆・万里の長城」にみえる。中国が外に出て行くためには、そのライン上でどこがいちばん強く、どこが弱いかを見極めていかなければならない。もし、台湾が中国の手に落ちるとなると、第一列島線は根幹から崩れてしまい、中国の西太平洋への進出や制覇が始まることになる。

 そこで、

 中国海軍の古典的な軍拡思想を相手にせず、日本は単独で艦隊を増強する必要はないのです。安保諸法をきちんと完備して集団的自衛権を発動できるようにしておけばよいのです。いざ鎌倉という場合を考えるということですね。アメリカ、インド、日本、そしてオーストラリアを含めて、全体として中国に対してパリティ(等価性)、あるいは少しばかりの優位性を維持していればよいのです。

 となる。

 琉球にも言及がある。

 「本土の日本人の大きな誤りの一つは、王族への対応の違いもあると思います」。日韓併合のときに、日本は李王朝の李家を王族として遇して皇族化したが、尚王朝は、一介の侯爵にしかなれなかった。

 この先は、佐藤の認識も交えて二人の対談をそのまま引いてみる。

佐藤 その後の明治政府、つまり中央政府が沖縄に関して起こした最大の問題は、沖縄に高等教育機関をつくらなかったことです。台北にも帝大があり、当時の京城には帝大があるにもかかわらず、沖縄には高校すらなかった。

山内 旧制高校がない。それから高等医専や高等工業もないのですね。わずかに県師範学校が1943年にようやく官立(国立)沖縄師範学校になっただけなのです。

佐藤 そうです。ただ、もうそのときには実際の高等教育をやってはいないですからね。アメリカはそこのところをよく見ていて、「民事ハンドブック」という占領マニュアルをつくっているんです。そのなかで、教育差別が激しいという指摘があり、逆に戦後になってからはミシガン州立大学が中心になって琉球大学をつくったわけです。

山内 高等教育機関に関しては、帝国大学ではないにしても、秋田高等鉱山学校や函館高等水産学校のように、地域振興だけでなく、全国に沖縄ありとアピールできる高等専門学校は欲しかったですね。このあたりの戦前の文教政策はひどいですね。

佐藤 そう思います。

山内 「沖縄」と称するけれども、沖縄の本島と八重山と奄美諸島ではまた状況が違ってきます。

佐藤 また、先島(宮古、八重山)と奄美に対する沖縄本島の人々の認識にもだいぶ違いがあります。先島は沖縄の枠に入りますが、奄美は別のカテゴリーです。

山内 この島々の間にある、ある種の差別や差異関係、これも実に深刻なのですね。沖縄本島人、那覇人あたりからすれば、奄美諸島人への差別や差異意識もないとはいえませんからね。

佐藤 ただし、宮古や八重山への帰属意識が、沖縄人というアイデンティティより優位になっているとはいえません。宮古、八重山を含む沖縄アイデンティティは確立しています。奄美になると、少し違ってくる。沖縄人も現段階ではあまり詰めて考えていないと思います。奄美に関しては、いまだに高等教育機関がないのです。短大さえもない。奄美高校が最高教育機関です。

山内 昔は「奄美群島Ⅸ」という選挙区までつくらせたのに。

佐藤 重要なのは、巡礼の中心になるような頂点としての高等教育機関なんです。沖縄の場合は現在の琉球大学でしょう。それから名護の名桜大学もいま結構な力があります。それから沖縄国際大学、沖縄大学、起き案和キリスト教学院大学、そして沖縄科学技術大学院大学等、ようやく増えてきました。

山内 とくに沖縄科学技術大学院大学は、日本本島だけでなくグローバルに開かれた沖縄という観点からも、もっと早くつくるべきアカデミック・チャレンジでしたね。

 佐藤のいう「奄美高校」は「大島高校」の間違いだろう。だが、山内の琉球認識は、内側からの目線からも相当に正確だと感じる。ぼくはイスラムについては、門外漢だが、琉球認識から推し測るに、山内の見識は信頼性が高いのではないかと感じた。

 

『第3次世界大戦の罠―新たな国際秩序と地政学を読み解く』


|

« 『日本をダメにしたB層の研究』 | トップページ | 『学術書を書く』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『第3次世界大戦の罠』(山内昌之、佐藤優):

« 『日本をダメにしたB層の研究』 | トップページ | 『学術書を書く』 »