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2015/09/14

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』

 エマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』。どうしてこんな過激なタイトルになるかといえば、

アメリカとドイツは同じ諸価値を共有していない。大不況の経済的ストレスに直面したとき、リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを登場させた。ところが、権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ。

 こういう懸念をトッドが持つからだ。

 トッドは、「自分たちがいちばん強いと感じるときには、ドイツ人たちは、より弱い者による服従の拒否を受け入れることが非常に不得意だ」という言い方もしている。これは直近のギリシャに対するドイツの態度にも言えるのかもしれない。

 トッドの指摘から気づかされるのは、歴史的な経緯をもって、国家が見られているということだ。

 「ドイツというシステム」は驚異的なエネルギーを生み出し得るのだということを認める必要がある。歴史家として、また人類学者として、私は同じことを日本についても、スウェーデンについても、あるいはまだユダヤやバスク地方やカタロニア地方の社会文化についても言うことができる。好むと好まざるとにかかわらず認めるほかない事実として、ある種の文化はそんなふうなのだ。

 こういう視点から日本を眺めれば、アメリカが抑えていてくれたほうが安心だという見方も成り立つだろう。

 そういうトッドは、

 早い話、自分のことを言わせてもらえば、自分の属するネイションの自律性の消滅に直面している一フランス人として、もしドイツの覇権かアメリカの覇権か、どちらかを選べと言われたら、私は躊躇なくアメリカの覇権を選ぶよ。

 この断言がどきっとさせるのは、「自律性の消滅」を「自律性の不在」に、「ドイツの覇権」を「中国の覇権」に置き換えたら、ほぼ今の日本の気分に合致するのではないかと思わせるところだ。

 「現在生まれつつある世界状況の中で自らを方向づけるためには」、

 この世界を戦略的現実主義学派、たとえばヘンリー・キッシンジャーの一派がしているように見ることを受け入れなくてはならない。つまり、政治的な価値観の問題を持ち出すことなしに、各国間の諸システムの間の純然たる力関係を見るということだ。

 この視点が、目下、必要とされているということは、ぼくも受け入れなければならないと感じた。


 追記。雑誌「文藝春秋」にもトッドの記事が載っていた(「幻想の大国を恐れるな」)。

ヨーロッパも日本も、かつてはナショナリズムの時代を経験しましたが、それを克服し、現在はポストナショナリズムの時代にいます。しかしいまの中国はナショナリズムの時代にいる。その古い時代に引きずり込まれることは、断固拒否すべきです。
そんな日本が一番乗ってはいけないのが、できるだけ世界と距離を置いて自分だけの殻に閉じこもってしまおうという孤立志向の誘惑です。この孤立志向は日本の社会文化的な特徴といえますが、それに反してまで積極的に世界の安定化に寄与していくべきだと思います。

 ナショナリズムという段階のあったこと、自分の殻に閉じこもりがちという日本のある側面は的確に捉えられていると思う。安保法制についてはどうだろう。

 日米の安全保障強化を否定的に見る人たちは、軍事的にも産業的にも日本がアジアでは唯一の大国で、非常に攻撃的だった一九三〇年代に、すぐに思いを馳せてしまいます。(中略)
 私が日ごろから非常に不思議だと感じているのは、日本の侵略を受けた国々だけではなく、日本人自身が自分たちの国を危険な国家であると、必要以上に強く認識している点です。
 長い日本の歴史の中で、日本が侵略的で危険な国であったのは、ほんの短い期間にすぎません。しかも日本が帝国主義的で軍国主義的だった二十世紀の前半は、ヨーロッパの大国も同じことをやっていました。当時の欧州は今とは比べ物にならないくらい帝国主義的、膨張主義的だったのです。当時の情勢を俯瞰してみれば、日本はそういった世界の趨勢に追随したようにしか見えません。ですから、当時の日本の攻撃的な性格はもともとあったもので、日本という国家の決定的な本質であるかのような議論は、まったく非現実的だと思うのです。
 いまの日本は平和的な国家であり、一定の軍事力をもって、世界の安定化に積極的に貢献することができる資質を持っています。日本がフランスなどのようないわゆる「普通の国」になって、何がおかしいというのでしょうか。

 日本は、「帝国主義的、膨張主義的」な「世界の趨勢に追随した」に過ぎないという視点が、ヨーロッパの知識人にはあるのは、重要なことかもしれない。ここには、「敵国」という観方はないからだ。

 ただ、トッドが「非現時的」とみなす議論については、内側から応えなければいけないことが含まれている。「日米の安全保障強化」が、敗戦を否認し戦前への回帰を目指す団体を頼みにした政権によって推進されていること。にもかかわらず対米追随が激しい政権は、いざというとき、理念の押しつけに容赦のないアメリカに対して、無条件に追随する危険性が大いにあるということ。これらが限りなく不安を惹起することに対して、トッドの発言は充分に応えるものではない。言い換えれば、「侵略的で危険な国」であったことを、この国は克服しきれていないと思える、ということだ。

 

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』

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