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2015/09/23

『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』

 アメリカ海軍大学が2014年に出したレポートによると、人民解放軍の近代化は、「台湾有事」に備えるもの。台湾が何らかの形で独立を宣言した場合、武力による威圧や武力行使によって台湾を屈服、ないしは併合することが想定されている。

 台湾有事における人民解放軍が採りうる台湾侵攻作戦を端的に言えば、ミサイル攻撃や台湾の港の封鎖をちらつかせ、実際に行動に移すことで台湾の意思を挫く一方、救援にかけつける米空母をミサイルで威嚇して接近させないようにすることを指している。

 こうした人民解放軍の能力を、アメリカは「A2/AD」と呼んでいる。アクセス阻止・領域拒否(Anti-Access/Area- Denial)。

 アクセス阻止(A2))とは、前方展開基地や戦域への接近(アクセス)を阻止するもので、具体的には台湾海峡危機の際、駆けつけてくる米空母打撃群や増援の航空戦力が台湾周辺に近づくことを阻止しようというものだ。アクセス阻止が外から入ってこようとする敵の接近を拒否するものであるのに対し、領域拒否(AD)はすでに展開している敵を自由に行動させないことを指す。たとえば特定の領域(海、空、宇宙、サイバー空間)を敵が自由に利用あるいは活動することを制約するものだ。端的に言えば、A2/ADとは接近しようとする米空母をはねのけて後退させたり、接近を許しても自由に動けないようにがんじがらめにしたりすることだと言っていい。

 で、これに対して、2013年、米国防総省が詳細を正式にまとめたのが、「エア・シー・バトル(Air- Sea Battle)構想」。

 ASBの主な狙いは、「人民解放軍の戦術目標の達成を妨害、遅延させてひいては「中国の戦略目標達成のコストを引き上げる」こと」。「時間、予算、装備の面における達成コストを引き上げることで、結果的に中国側に木曜達成(=軍事行動の貫徹、あるいはその発動)を諦めさせようとする」こと。

 ここで、「海上版・万里の長城」という比喩はここでも使われている(cf.「アメリカ流非対称戦争」)。

米軍、自衛隊は中国海軍の西太平洋への進出を阻止するため、琉球列島沿いに対空ミサイル、対艦ミサイル、潜水艦を配備することになる。対空ミサイルは航空自衛隊のPAC2とPAC3を九州の築城、芦屋、新田原、鹿屋、奄美大島、沖縄本島、石垣島、宮古島に配置し、巡航ミサイルを積んで飛来する中国の爆撃機や戦闘機の接近を拒否することが目的となる。これには陸海空の3自衛隊が、中心的な役割を担うことを求められる。米軍の主力は分散対比して態勢を立て直している最中であり、直接、日本防衛に投入できる主力は、嘉手納の損害を受けている航空戦力に限定されるからだ。
 海では大隅海峡と宮古海峡といった「チョークポイント」と呼ばれる戦略的に重要な海峡に護衛艦や潜水艦を配備して、中国海軍の水上艦艇の通過を阻止する。これは艦船や潜水艦の通り道である海峡という点を押さえることで西太平洋という面を防衛する、要するに中国海軍の活動を第1列島線内の中国近海に封じ込めようという試みである。

Asb_3

 要するに、ASBは、台湾有事に対する抑止でもあれば、有事になれば、本土および、琉球列島を戦場にするというコンセプトである。しかも、そこでアメリカが反撃に転じるまでに戦闘に参加するのは自衛隊なのだ。しかし、この計画が進行しているということは、日本は日本国が戦場になるコンセプトを受け入れているということだろうか?

 しっかしまた、なんてこったいなシナリオだ。

 別のレポート(「日米同盟の抑止態勢をめぐる現状と課題」栗田真広)では、今年1月、国防総省はASBを名称を含め、見直すとされている。

確かに、ASB、特に CSBA が対中作戦構想として発表した時点でのそれは、我が国にとっての含意が極めて大きいものであった。ISR 面で同盟国には米軍の能力を補完することが求められることに加え55、作戦の究極的な成否が、補給・修理・出撃拠点として日本を継続的に利用できる点に依存しており、また米中戦争の初期段階で、中国のミサイル攻撃を回避するために米軍部隊がいったん退避している間、自衛隊が第 1 列島線(琉球列島)沿いの防衛ラインを設置することが期待されるという56。すなわち、琉球列島沿いに対空・対艦ミサイルを配備して爆撃機や戦闘機の飛来を防ぎ、大隅、宮古両海峡などに護衛艦や潜水艦を展開して西太平洋へ進出しようとする中国海軍を阻止して第 1 列島線内に封じ込めるほか、東シナ海や日本海でのイージス艦による弾道ミサイル防衛や、汎用護衛艦による米空母打撃群の護衛などを行うことが織り込まれているとされる。

 こうした協力は、ASB の有効な遂行、ひいては米国の通常戦力面での戦力投射能力に依拠した抑止力の維持に欠かせないものと位置付けられていた一方で、自衛隊にとっては極めて損耗が大きいと予想される。また、自衛隊の能力構築面での含意にも目を向ける必要がある。自衛隊に期待されるこれらの役割、特に第1列島線沿いの防衛ラインの設置は、概ね、我が国が中国に対して A2/AD を展開することに当たるが、この分野への注力は、シーレーン及び我が国本土から遠く離れた空域の安全確保などを含め、経済大国としての我が国がグローバルに求められる責任を果たす上で必要な能力に投資するリソースを削いでしまうとの指摘もある。

 なんとも不思議な文章だ。


『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』


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