« 蟹行事考 | トップページ | 「敬箋」と「焚字炉」 »

2015/09/12

霊魂の成立の背景

 縄文時代の中期以降に、土偶は立体的になる。これは、対象化された身体像が獲得されていることを意味している。そして縄文後期になると、土偶仮面が登場する。これは、霊魂の成立を意味している。

 また、縄文後期になると環状集落が廃れて人々は分散していく。この背景には地球の寒冷化が再び始まったことによる。

 まず、環状集落ならではの資源獲得の方法、つまり、ある季節にたくさんとれる特定の食料資源を多人数でいちどきに収穫・貯蔵するという暮らしが、寒冷化による食糧の収穫量や分布の変化によって、しだいに従来どおりにいかなくなってきたと推測される。それまでのとりすぎによる資源への負担が、気候の変化によって一気に表面化した場合もあったかもしれない。(松本武彦『列島創世記』

 この居住の分散化は、生者と死者の世界の区別を生む。死者、つまり過去の生者と自分たちは違うという意識を生む。これは同時に、生者間の区別の意識を生む。分散した共同体同士は観察し、観察される主体になる。そこで、対象化された身体像が獲得されるようになる。

 同時にこの過程はトーテミズムの解体を招く。

 もはやどうしても、他の動物と同一の類のうちにとどまることが不可能なようにみえはじめたとき、原初の人間には呪的な宗教が、いいかえれば自然宗教があらわれる。またいいかえれば、〈自己聖化〉があらわれる。かれらの表出したすべての自然存在が〈聖化〉されるとおなじように、原初の人間の自画像もまた聖化される。かれらは対象的観念のなかでのみ、すべての自然存在と交感することも〈化身〉することもできるようになる。すべての自然存在からの〈類別〉を疑いえなくなったとき、〈対象化識知〉のなかでのみ自在さを獲得しようとつとめるのだ。(吉本隆明、p.112『心的現象論本論』

 「対象的観念」のなかで、「すべての自然存在と交感することも〈化身〉すること」ができなくなる。すると、人間とトーテムとの融合した表象がなくなり、代わって、トーテムに実際に化身するという観念があらわれる。ここで「対象化識知」は、「自体識知」のくびきから逃れて身体像を獲得するようになる。言い換えれば、他人と自己の像を区別できるようになる。ここに霊魂が成立する基盤ができる。そして、人間の再生というほかに、霊魂が動物に入るという転生信仰が加わるようになる。

 この過程は、琉球弧の場合、どういう形で現れるのか。

 地球の温暖化は、琉球弧の場合、珊瑚礁の成立を伴った。そこで、島人は定着するようになる。寒冷化の影響は直接的には現われていない。次の温暖化の弥生時代に、九州では大酋長が生まれ、その背景をもとに、貝交易が始められる。これに応じる琉球弧では、貝塚時代後期に、遺跡立地の84%が砂丘・沖積地という低地立地になるという変化が見られる。新里貴之は、この遺跡は定住集落だけでなくキャンプサイトとして機能した可能性も検討する必要があると指摘している。ぼくたちはここに生と死の区別の標識を見ることになる。


『旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記』

『心的現象論本論』

|

« 蟹行事考 | トップページ | 「敬箋」と「焚字炉」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87956/61294487

この記事へのトラックバック一覧です: 霊魂の成立の背景:

« 蟹行事考 | トップページ | 「敬箋」と「焚字炉」 »