「南島の他界観」(湧上元雄)
湧上元雄は、考察よりも、その手前の、観察による記述の目配せのなかで本領を発揮する学者だと思える。
たとえば、次のような箇所。
沖縄の島々では全島または海岸平地が隆起珊瑚礁の石灰岩層に覆われ、横穴の洞窟やドリーネの陥没窪地が発達している。そこを降りて闇黒の地下トンネルを奥に進むと先細りとなり、やがて水だけが潜り抜けられるような穴になって海に通じる。このような暗黒の自然洞窟は冥府の門として風葬の場所にもなっていた。
初期の他界への道筋がよく分かる。また、小浜島のナビンドゥが、1キロ以上も続くのを湧上の記述ではじめて知った。
古い仮面は陥没ドリーネのナビンドゥーの横穴の洞穴を一キロメートル近くも運び、わざわざ海岸の波の音の聞こえる地底に納めるという。
また、次のような記述。
思うに珊瑚礁の島々では人骨が炭酸カルシウムの皮膜に覆われて容易に朽ちないこともあって、南島ではことのほか人骨崇拝が盛んであった。(中略)南島人にとっても岩石は永久不変への象徴であった。共同体の成員または始祖と注目される人々の洗骨を石のセジに感染させて、死者の再生と共同体の多産豊穣を計るべく、岩石の穴や窪みに格納されたのを、フニシー(霊威の憑依した人骨)とも骨神(フニシン)ともいう(『沖縄民俗文化論―祭祀・信仰・御岳』)。
骨神の信仰と、人骨の残りやすい地質条件とを結びつけた記述が新鮮だった。
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