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2015/08/18

『はじめての社内起業』

 企業に勤めていた頃、後半の10年くらいは、新規事業の立ち上げに携わることが多かったので、石川明の『はじめての社内起業』は、当時を振り返るよい機会になった。

 「敵は市場よりも前に、社内にいる」ということは、当初、痛感し、やがてそれが当たり前だと考えるようになったことだし、「起案者が、「思いを込められるテーマであるかどうか」はとても大切です」というのも、いたく共感できた。ぼくの拙い経験でも、うまく立ち上がった事業は、主体になった担当者の、「彼(彼女)らしい」という顔つきがサイトか、サービスの中身のどこかに現れるものだと思う。それは、その事業の個性や特徴でもあれば、癖でもあって、必ずしも強みとは限らないのだが、でもそれなしにはこの事業はないと感じさせてくれるものだ。

 うまくいったこと、うまくいかなったことでいえば、もちろんうまくいかなかったことのほうが多い。失敗について、

新規事業が「社風」や「慣習」とそぐわないことが大きな障壁になることがあります。

 という一文には、思い当たることがあった。検索ポータルサイトに勤めていた頃に、サイトのソーシャル化と、ソーシャルメディアの立ち上げを提案したことがあった。前者はうまくいったが、後者は果たせなかった。トップの了承も得て、事業化寸前まで行ったが、はじごを外されるように崩れたのだった。いきさつはいろいろあるけれど、そもそも検索ポータルサイトとソーシャルメディアの相性を、よくさせることができなかったと捉えると、自分の責任としては受け取りやすい。

 「市場開拓」、「市場浸透」、「多角化」、「新製品開発」の4象限では、各象限のそれぞれを議論することが多いが、著者は、4象限を分かつ「線」に注目を促している。

 「既存」と「新規」の間の線、それは既存事業と新規事業の間を分かつもの。つまり、その会社が新たな事業によって越えるべき「壁」です。
 新規事業を検討することは、この「壁」が何であり、なぜ「壁」になっているのか、「壁」を乗り越えたところに何があるか、乗り越えることに価値はあるか、どうすれば乗り越えることができるのか、について考えることにほかなりません。

 この、「線」を「壁」として見る視点はぼくには無かったので啓発された。また、セミナーなどで、「立てた企画を、無理解な経営者に通すにはどうしたらよいか」と聞かれることがよくある。この場合、「優れたマーケターを見てきた経験では、「情熱」だと思う」、と答えることが多いが、著者はそこを、「経営者より熱い情熱を持つこと」と主張している。うん、こちらのほうが説得力があると、頷かされた。

 この本は、「孤軍奮闘になりがちな担当者」のための「社内起業」(新規事業開)の「伴走」書なのだが、ぼくの場合、ふたたび新規事業をやりたくなる気持ちの伴走になってくれたようだ。

 易しい言葉で丁寧に説明されている。けれど、社内起業のタフさに耐えるタフな入門書だと思う。

『はじめての社内起業 「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ』

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