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2015/02/11

類感呪術と感染呪術の南太平洋例

 類感呪術。類似は類似を生む、あるいは結果はその原因に依る。
 感染呪術。かつてたがいに接していたものは、物理的な接触のやんだ後までも、なお空間を隔てて相互的作用を継続する。(『金枝篇〈第1〉』

 類感呪術は、呪術の隠喩的な行使。感染呪術は、呪術の換喩的な行使。

 目下の関心にしたがって、南太平洋の例を中心に挙げていく。

 類感呪術の例。

 例1.ダイヤク族(ボルネオ)。難産の時は妖術師が招かれる。彼は身体をうまくあやつる方法で分娩を促す。それ外では他の妖術師が一種の擬娩の動作をする。

 メモ。レヴィ・ストロースが紹介していたアメリカ先住民クナ族では、呪術はもっぱら歌によって行なわれていた(cf.「象徴的効果」)。

 例2.ダイヤク族。医術師が患者に招かれると、横臥して死を装う。そして死骸の扱いを受ける。一時間ほどして、他の術医がその死骸に生命を与える。こうして病人も快方に向かうと信じられた。

 例3.エミュー・トーテムの人々(オーストラリア)。エミューを増殖するため、地面にトーテムの形、とくに脂肪と卵の形を描く。そしてこの絵を取り囲んで歌う。また、エミューの長い頬と細長い頭をかたどる頭飾をつけて、真似る。

 例4.西部諸部族(ブリティッシュ・ニューギニア)。ジュゴンまたは海亀に投げる槍の穂先を差し込む柄の孔に小さなカブトムシを詰め込む。カブトムシは人に噛みついたら容易に離れないからである。

 例5.カンボジアの漁師。一向に獲物がかからないと木は、裸体になってその場を立ち去り、網のあることに気のつかぬふりをして戻り、わざとひっかかり、言う。「おやこれは何だろうか。いやしまったわい。網にかかってしまった」。

 例6.トラジャ人(セレベス)。妊婦のいる家の梯子の上で立ち止まったり、ぐずぐずしない。赤ん坊の出生を送らせてしまうから。消極的呪術としてのタブー。

 例7.ダイヤク族(ボルネオ)。首狩りに出かける場合は、彼が片時も武器のことを忘れないようにするため、妻や姉妹は、夜も昼も武器を身につけていなければならない。

 例8.マレー人。稲を狩るときに上体を裸にするのは、もみ殻を薄くするためである。人間と植物。

 例9.西部諸部族(ブリティッシュ・ニューギニア)。密林に入って行く前に蛇を殺して焼き、その灰を両脚にこすりつけると、それから数日は蛇に咬まれることはない。人間と動物。

 例10.バンクス諸島。海辺に打ち上げられた珊瑚は驚くほどパンノキの実に似ていることがある。こんな珊瑚をみつけた時は、パンノキがよく実をつけるように、自分の木の根元に置いておく。神聖な石。

このような例で、メラネシア人はこの驚くべき威力を、石そのものにではなくて、石の中に宿る霊に帰した。そしてしばしば、今われわれが見たように、石の上に供物を供えることによって、その霊を宥めようとする。ところが、宥められる霊の観念は、呪術の範囲の外に、そして宗教の範囲のうちに属するものである。この例のようん、このような観念が純粋な呪術的観念や行為としてあらわれる場合には、おおむね後者はいつか後代に至って宗教的観念が接木さえれた台木であると見てさしつかえない。なぜならば、思想の進化の過程において、呪術が宗教に先行したと考えられる確固たる証拠があるからである。

 石のなかに宿る霊への供物は、霊力思考に霊魂思考が混融していることを示す。「思想の進化」ということではない。

 感染呪術の例。

 例1.ララトンガ(ポリネシア)。子供が歯が抜けた時に唱える言葉。「大ネズミ、子ネズミ。私の古い歯をあげよう。どうか新しいのをおくれ」。そして歯草葺き屋根の上に投げられた。朽ちた屋根にはネズミが巣をつくっている。ネズミの歯ほど頑丈なものはないと考えられていた。

 これは、与論島にもある。「ワーヌパートユミヌパートゥ、パームパーヤムイベーク(私の歯と鼠の歯と、私の歯の方がははやく生える」。ララトンガよりも与論島の方が呪言がアクティブだ。屋根に投げる所作も同じ。

 ぼくは呪術のなかでも呪言に相当するものを知りたくて、フレイザーの『金枝篇』を当ったのだが、ここで出会った。舞台がポリネシアのララトンガ(ラロトンガ)であれば、霊魂思考も大きく関与しているはずだから、呪言はやはり、霊力思考と霊魂思考の混融形態と考えていいように思える。

 例2.メラネシア。友を負傷させた矢を手に入れた者は、それを湿った場所か冷たい木の葉の間などに置くと、炎症は次第に和らぎ、ついには消えてしまうという。

 例3.パプア族(ニューギニア沖のトゥムレオ島)。傷の包帯に使った血のついた布は注意深く海へ捨てる。敵がこれを拾えば、呪術的に彼を害する恐れがあるからである。

 例4.タンナ島(ニューヘブリデス)。他人に怨恨を抱き、死を願う者は、敵の体の汗のしみた衣類を手に入れようとする。呪術をかけられるからである。

 例5.オーストラリア東南部。人の足跡に尖った石英、硝子、骨または木炭などを突き刺すことによって、その者を跛にすることができる。リウマチの痛みはこうして起こる。

 例6.オーストラリア東南部。石英やガラスの鋭い破片を、横臥した跡に埋めれば、その人に危害を加えることができる。「このような鋭利なものの呪力が身体に侵入し、無知なヨーロッパ人ならリウマチだと思うような激痛を起すのである」。

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