『何度でも言う がんとは決して闘うな』
一年ほど前から、母が癌を患っている。そうなる前から、母は近藤誠の読者だったのだけれど、見舞いや説明を受けに何度か病院へ行くなかで感じるところがあって、ぼくも読み始めることになった。
母は基本的には近藤誠の考えに共感していて、症状に対処するためにやむを得なかった手術を二度、特定の箇所に限った放射線治療を一度、受けているが、抗がん剤は拒んで身体に入れていない。ぼくも、抗がん剤の拒否には賛成している。自分であっても、そうする気がする。
では、他人にも勧めるかと言われれば、言い澱む。これが正しい道だと確信しているわけではないし、確信を与えてくれるものが存在しているわけでもない。人によって考え方も状況もさまざまだ。ただ、ぼくにとっては近藤誠がもう片方の考え方を提示しているおかげで、こちらにいくぶんかの判断材料が得られたことは大きかった。だから、勧めるところまで踏み出せないけれど、この一年余りの経験から、同様な立場に立った人の話を親身に聞くことはできるし、近藤誠を読むことは勧めると思う。大方の医者は言うことはない見解に触れることができるのは、今でもそうそうないのではないか。
現状の判断にしても、これでよかったと思えるのか、悔いを残すのかは分からない。そこに答えがあるかどうかも分からない。ただ、母が珍しく示した意思に対して、尊重したいという思いがいまは強い。根が与論島生まれの自然児なのだ。母がなるべくふつうの日常を生きたいと願うのは自然なことだ。
そんな折、ふたたび近藤誠の本が出版されたので、『何度でも言う がんとは決して闘うな』を手に取った。これは、彼が医学界に口火を切ってからの対談集で、その意味では読みやすく、主張もすんなり頭に入ってくる。とても嘘を言っていると思えない印象も変わらないが、過去の対談集なので新しい知見や主張が収められているわけではない。しかし、慶応大学を辞めた現在も、彼の、「闘うな」という戦闘は継続中であることが、読むと分かる。
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