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2015/01/27

アルンタ族

 中部オーストラリアのアルンタ族のことは、棚瀬襄爾の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』のなかでも触れられていた。

 他界観念

 死者の霊魂は、岩など一か所に集まり、狙った女の中に入り、子供に再生する。その岩はアリススプリングスの近くにある(P.54、by スペンサー&ジレン)。

 北海の海(Laia)の中に死者の島が信じられている。死者の島、霊魂の地と呼ばれる地には、しなの木があり、小鳥がいる。死者の霊魂は、薄い白い姿。夜は踊り、昼は寝る。死後、霊魂は墓の付近にいるが葬宴が行われると死者の島に行く。雨が降ると、南方に彷徨いだし、故郷を見ようとする。子息をたくさん残した場合は、その肩を抱き、身体の中に次々に入り、成長させる。孫がある時は、孫に入る。1~2年して死者の島に帰る。死者の島の西方に行き、死者の木(しなの木)をあらゆる方向から観察する。もう一度、この世に帰来し、ともに食事をし、死者の島の東方に行ってとどまる。再び死者の島の自分の家に戻り、西方から大きな黒雲が出て、雷に打たれて絶滅する。また別には、善人の霊魂は天の善き至上神のともに行き、そこにいつもとどまっているが、悪人の霊魂は悪霊の棲家に行き、食われてしまうという観念もある(P.54、by シュトレーロー)。

 アルンタ族は、明らかな再生信仰を持つものの、霊魂が狙った女の中に入るという表現のなかには霊魂思考の寄与が認められる。死者の島という観念では、霊力思考より霊魂思考が強く表れている。それによって、子を成長させるというように再生信仰は弱められている。

 葬法

 死後直ちに埋葬が行われる。死体は坐位にして、丸穴を掘って埋葬し、土は直接死体にかけ、上に枝を積む。その際、アルチェリンガの死者の住居の方に向ける。これは霊魂が出入りしやすくするためで、霊魂はある時は墓にあり、ある時は精霊に伴って、近親を監視すると考えられている。死者の毛髪は切り取り、腕飾り、首飾り、革紐は注意して保存する。埋葬が済むと、死の発生した住居はただちに焼き払い、家具は破壊する。そして集団の者は全員新地点に移る。

 12~18カ月の服喪期間中、死霊を惑わすことを恐れて死者の名を決して呼ばない。必要な時はささやき声を使う。死霊は自分の名を呼ばれると、喪が守られていないとして害を与える。死霊は人間の睡眠中に、不快感を示す。服喪が過ぎると、一般にはその名を言ってもよいが、若干の親族はその後も死者の名を言わない。寡婦は通話を禁じられ、服喪の期間は煙管泥で顔、髪、胸を塗る。12~18カ月を過ぎると、墓の上に枝を踏みつける儀礼をおこなう。泣哭、墓に血をしたたらすと、踊りが行われて喪を終える。寡婦はこれが済めば再婚していい。死者の霊魂は墓の底からこれを見ていて、この後は人を煩わさない。(P.100、by スペンサー&ジレン)。

 南部アルンタ族では、蹲踞姿勢の埋葬が行われる。墓穴はふさがず、草や木をかけるのみ。ヤム堀棒を墓につきさしておく。死者の霊魂は、その上に坐っているとされる。墓は数週間そのままにしておくが、その期間の終わりに死霊に見つけられないようにして墓に行き、二人の主役が死体の側から湿土または砂を取り、男たちににおいをかがせる。一人が女たちに同様のことを試す。次に全員はこの土と腐汁との混合物を身体に塗る。そして墓を土でふさぎ、その上に土を盛り上げる。一同ははじめ、後ずさりして引き揚げる(p.100、エルキン)。

 死霊に対する恐怖が見られ、霊魂思考に強く影響されている。「死者の毛髪は切り取り、腕飾り、首飾り、革紐は注意して保存する」ところには霊力思考、「住居はただちに焼き払い、家具は破壊する」ところには霊魂思考が現われていて、両者は混融している。

 デュルケムの『宗教生活の原初形態』では、このアルンタ族が豊富に引用されているので、上記のアウトラインをもとに、アルンタ族像を豊富にしてみたい。

 アルンタ族では、トーテム的記号として歯を抜く。これは雨を降らせる黒雲に似せるためだ(p.205<上>)。

 成年式において、氏族に属するあらゆる聖物が納められている聖堂に入るのを許された時、肉体にトーテム的象徴を描く(p.207<上>)。一定時に、「一定の人物が修行者の頭皮に噛りつくことを命じられている。この施術は非常に苦しいので、患者は、一般には、号泣なしにはこれに耐えられない」。ところが、これは毛髪を増やすことを目的にしている(p.142<下>)

 儀礼に用いられるチュリンガは、「木片または磨石の断片で、形態は非常に変化があるが、一般には卵形か長楕円形である(p.211<上>)。それにはおのおのの集団のトーテムを表現する構図が彫られている。

 チュリンガは、特別な場所にうやうやしく保存されている。「これは洞穴または人気のない場所に秘められた一種の小さな地下室である(p.213)。そこは女性や入信していない者は近づくことができない。そこでは喧嘩が禁じられる。

 アルンタ族は、チュリンガに「個人や祖先のトーテム的存在の共同体を見る」(p.58<下>)。

 子供がトーテムとするのは、父、母のそれではなく、「近づく母性の最初の徴候を母が感じたと信ずる場所を中軸とする(p.327)」。「アルンタ族は、生殖の事実を性的行為と結合させる明細な関係を知らない」。「この地方的トーテミズムこそトーテミズムの原本形態を表わす」。「アルンタ族では、母系の世襲的トーテミズムは地方的トーテミズムより後ではなく、かえって後者に先行していなければならない(p.320<上>)」。

 それ以上には想像がさかのぼれず、時間の最初の発端に、他のどのようなものからも派生したものではない緒存在を、アルジランガミチナ(Aljirangamitjina)と呼ぶ。創造されないもの、永遠のいやさきから存する存在。この時期をアルンタ族は、アルチェリンガ(Alcheringa)と呼ぶ(p.23<下>)。

 プチアプチアという野猫氏族の祖先が人間にチュリンガを作って儀礼に用いる様式を教えた(p.91)。

 トーテム礼拝を主宰している祝祭がインティチュマ(Intichiuma)。

 ハケア花のインティチュマでは、ハケア花を表現する聖なる石において、一人の若者の血を石の上に、石が被われてしまうまで血を拡がらせる。花の繁殖を願ってのことである(p.172)。カンガルー族のインティチュマでは、アルチェリンガのカンガルー動物を表わす岩を摩擦した後、自分たちの血を岩に沿って流す。人・カンガルーの血は、そこに存在している動物・カンガルーの精霊を放逐し、精霊をあらゆる角度に散布する。これは結果として、カンガルーの数を増加させるはずだ(p.173<下>)。

 インティチュマの最後の祭儀。食物上の禁忌の終わり。

 青虫がたくさん出てくると採集する。キャンプに持ち帰り、砕けやすくなるまで炙る。木製の容器に保存する。キャンプに全員が集合して、炙った青虫を石と石の間で粉にする。酋長?が、その粉を少し食べる。そして緒氏族の人に渡され、ほんの少量食べる。

 上記のカンガルーの増殖儀礼の後に、若人がカンガルー狩りに行き、男のキャンプに獲物を持ち帰る。老人たちが肉を少し食べ、インティチュマに参加した者の身体を脂で塗る。残りは集合した人々の間で分配される。トーテム族の人は、トーテムのデッサンで装飾する。夜は、カンガルーの人や動物がなしとげた功業を偲ばせる唄で過ごす。翌日、若人は森に狩りに戻って、初回より多くのカンガルーを狩り、前夜の祭儀がふたたび始められる(p.181<下>)。

 これらの例は、霊魂思考がかなり混融した後にも、トーテミズムは残ることが示されている。

 

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