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2015/01/28

マレットの「宗教と呪術」

 「タイラーの有霊観はあまりに主知的であり、したがってせまきに失している」(「先霊観の宗教」)、「タイラー博士のいわれる「宗教の最小限の定義」を基礎づけることを公然たる目的とする場合、マナあるいはむしろタブー・マナ公式は有霊観よりは確実に進歩した理論である」(「マナの観念」)と、タイラーに対する差別化は舌鋒鋭いのに、マレットの主張自体は控えめなものに見える。その理由を知りたくなるが、そこまで深入りする暇がない。ひょっとしたら、有霊観に対して先霊観として提示するのではなく、両者の思考のありようが独立したものであることまで考え至っていれば、払拭されていたものなのかもしれない。

 マナは超自然的なものとその範囲をひとしくするが、有霊観はそれよりもはるかにひろい。マナはつねにマナであり、つよさにおいてはことなるが-いわば電圧においてことなる-本質においては決してことならぬ超自然力である。る。有霊観はそれ以上還元できない種類のもの、つまり「霊魂」「精霊」「死霊」などにわかれる。最後に、マナは非物質的なものをあらわすのには非常によく適しているが-可見の背後に作用する不可見の力として-それでもバラバラの状態にある原本的な反省作用に準じていて、人格的なものと非人格的なものとの区別をたもったり、とくに高い個性の観念を促進したりするようにはみえない。他方、有霊観はそれよりも一層人格的な形式の超自然的なものに近づく傾向にあり、また、超自然の転移性を示すのにあまり適切でなく、さらにその非物質性をあらわすのにも適当ではない。しかし、そのつぐないとして有霊観は、人類の社会状態がこのような観念をそだてるほどに発展した場合には、つねに一つの特殊化された形態で、高次な個性をもつ超自然的作用をあらわす手段となることができる。(「マナの観念」『宗教と呪術―比較宗教学入門』 )。

 マナについて、外側からなぞるように言われるので、読む方は最後まではっきりしない漠然とした印象をもってしまう。タイラーの有霊観のほうがすっきりして見えるくらいだ。これは、マナと、マナに有霊観が混融した場合とを、事例から、あるいは理論からはっきり区別できなかったことからくるのではないだろうか。

 とはいえ、マレットのマナ観を吟味したいわけではないから、目線を変える。

 オーストラリアでは超自然的存在は、超自然的力をもつ首長と考えられるが、精霊などとは考えられてはいない。また、奇妙な感じのする石は力をもつもの、生きているとすら考えるが、しかし、「その石が幸運をもたらすという漠然たる信仰が、のちにいたってそれらの石のなかには「死霊がひそんでいる」という見解に達するまでには大きい隔たりがある」。

 両者の見解は、時間の隔たりがあるのではなく、霊力思考と霊魂思考の異なる思考の隔たりがあるのだと思える。

 タイラーの有霊観は、「夢幻説」と仇名されている。「夢幻説」とは、「霊魂および精霊の原型がとくに夢像および失神心象のなかに求められるべきものであると主張する」。現在では、これを「幻想説」といったほうが一層適切な名称である、とマレットは書いている。

 「夢幻説」という仇名にしても、「幻想説」にしても揶揄が含まれているのだろう。しかし、未開人にとっての夢や失神状態は、幻ではなく現実であり、昼の続きなのだから、根拠稀薄なものではない。

多くの未開人が蛇を自分たちの祖霊の権化であるとして扱いがちになるのは、墓場によくあらわれたり、家の中にはいってきたりする蛇の習性とむすびついて、蛇の肢体そのものが不気味なためであることは確かであると思う。

 マナの観念を見出したマレットにしても、現代人の感性で未開人の心性を解釈してしまう短慮をやってしまうことに驚かされる。

ある未開人は、螌(蟹?-引用者)や蛙や数匹の赤蟻や一片の水晶が呪術的な手法によって胃のなかに入れられると想像することがある。たとえば(螌の呪物に祈願をこめて)螌を焼いて相手の通る道に埋めておくと相手のなかにはいるとするがごときである。このように思い込んでなった病気をなおすには、未開人の医者は吸い出し療法、あるいはそれに類した施法をおこなうと同時に、他方では多少工夫をしこらした道具、たとえば精霊を驚ろかすための太鼓やガラガラ、精霊をとらえるための穴のあいた骨などを使うのである。

 ここでは、霊力思考において、呪物の転移が可能であるということが確認できる。

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