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2014/12/04

琉球弧の樹上葬

 はたして琉球弧で行われた樹上葬は、古代からのものだったのだろうか。それとも新しく導入されたものだったのだろうか。

 琉球弧における樹上葬の存在を明記したのは名越左源太だ。

 女巫死し去れば、即其戸(しかばね)を櫃(ひつ)に入て樹の上に懸け晒風雨。三年之後石櫃に収て、神〔人登〕天の古き戒也と云。中古、監官禁之到ては、竊(ひそか)に行之纔(わずか)に三、四村也。(中略)嶋中諸所山中又は村山に人を禁止、不入処あり、是多くは能呂久米(のろくめ)の頭(かしら)御印可那之(ごいながなし)の葬場ならん。其法、若し天主教に紛らわしなどの疑ひあらんと、監官より禁之。(若し強て此山中に入るものは、反鼻蛇に打れ、又頓死すると云伝て、島人大に畏れ不近。)(名越左源太『南島雑話 2』

 死体を棺に入れて樹の上にかけて風雨に晒す。そして三年後に石櫃に収めた、とある。これは祝女に対して行われたことだということも分かる。この葬法は、薩摩藩からはキリスト教ではないかと疑われ禁じられていた。「養和の飢饉」のページの下方で名越が描いた図もみられる。

 名越の文章と図からはこれが樹上葬であることが分かる。また、一般の葬法ではないから、祝女に対してのみ行われたのか、気になる。

 伊波普猷は、島袋源七から聞いた話として、次のように書き留めている。

図は国頭郡の久志村の山中にあったもので、島袋源七君が現にそれを見たことのある土地の老人に根掘葉掘り聞きながら書き、其人が実物に近いといふまで、修正したものである。この図では小屋の壁の二面だけは棺柩の這入ったのを見せる為に(中略)、あけておいた。それから其周囲の木の枝などには、洗骨した髑髏が袋や芭蕉布で包んで、澤山つるしてあったとのことである。この老人の話によれば、屍が腐敗し始めると、この付近は到底通れなかったということである。この棺柩は久高島や沖永良部島などのそれのように、もと地上に置かれたのであろうが、こうして三、四尺位の一本の柱の上にすえられた小屋の中に収められて、周囲に柵まで立てられたのは、猟犬などが繁殖するにつれて、その害を避ける必要上段々発達して、ついにこういう形を取るに至ったのではあるまいか。(伊波普猷「南島古代の葬制」)

 この図も上で紹介した同ページに載っている。島袋が土地の老人に根掘り葉掘り聞かなければならなかったのだから、島袋が聴取しただろう昭和初期にはもう見られなくなっていたか、なかなか見ることのできないものだったかを示している。ここでは誰に対して行われた葬法かは書かれていないが、周囲の木の枝には、洗骨した頭蓋が袋や芭蕉布に包まれてたくさん吊るしてあったということからすると、祝女という限定された島人だけの葬法ではなかったのかもしれない。

 ただ、この「三、四尺位の一本の柱の上にすえられた小屋の中に収められて」という形態は、樹上葬というより、台上葬あるいは杭上葬とでも言うべきものだ。

 そこで関心を惹かれるのは、南太平洋においても、同様の形態を見出せることだ。

 例.ボルネオ(カリマンタン)のダヤク族(シー・ダイヤ)。ふつうは埋葬するが、特に尊敬される人は埋葬せず、8~10フィートの杭上の家の中に安置し、柵をもって囲う。耕作を決定する星に関する知識を有する男女に行う。

 家の中か山中という違いがあるが、死体の置かれた形態は似ている。ほぼ同じだと言ってもいい。興味深いことに、南太平洋において、特定者だけ台上葬を行う事例を探ると、ふつうは埋葬を行うが、首長や戦士や、ダヤク族のように特に敬意を払われた人のみが台上葬を行っていることだ。その分布は、メラネシア、ニューギニア、ボルネオ、スマトラ、フィリピンである。特にダヤク族においても、「耕作を決定する星に関する知識を有する男女」とあり、呪術師の系譜である点、名越の挙げた祝女との親近性も伺える。

 山原の山中の杭上葬とでも言うべき葬法が、祝女のような宗教者に対して行われたものだとすれば、ふつうの島人とは異なる葬法として選択されたのかもしれない。古代琉球弧は、埋葬思考と樹上・台上葬思考との混合として言うことができるから、古代からこの形態は存在した可能性を持つ。

 ただ、名越の挙げた典型的な樹上葬は、セラム島のアルフル族において、腐敗するまで森の中の木にかけ、のちに納棺して家の中に保存するという以外は見出せないから(棚瀬襄爾の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』)、これは後に流入されたものだという可能性もある。ただ、流入したにせよ、琉球弧においては樹上葬を受容する思考は既にあったと言うことはできる。

※『南島雑話』にある「神登天に関わりを持つ処置なり」という注は、高神化という意味にも取れる。


『南島雑話 2』

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