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2014/12/23

仮面儀礼と他界観念

 もうほとんど顧みられることのない学説だと思うが、棚瀬襄爾の『文化人類学』を頼りにシュミットの原文化以降の三文化圏を参照する。霊魂思考と霊力思考の系譜を確かめたいからだ。

1.農耕文化

・女性が主導力となって農耕社会をつくる。母権制。男性は秘密結社をつくる。
・地母神。死者祭祀、霊魂信仰。月の崇拝。アニミズムは初期農耕文化。頭蓋崇拝。地下他界。

2.牧畜文化

・父権社会。大家族。
・軍事的にもすぐれ、国家形成力を内含する。
・天神崇拝。英雄崇拝。天の階層。

3.トーテミズム文化

・父権制。狩猟。トーテミズム(一定の地域的限定)。
・男性に対する厳重な成人儀礼。
・太陽神。呪術。台上葬、樹上葬。

 現実主義的なこの文化では一般にあの世という観念は未発達で再生観念が強く、やがてトテミズム表象と結合して転生の観念を生じていると私は見ている。

 (農耕文化)×(牧畜文化)

・母系制の維持。弓の発達。
・地母神の崇拝、月の崇拝、アニミズムの発達。
・首狩り

 (農耕文化)×(トーテミズム文化)

・月と太陽の崇拝。トーテミズム的増殖儀礼をまじえた農耕儀礼。動物仮面の登場。

筆者はかつて呪術と区別された魔術は、霊魂に対して呪術的方法を用うるものであるから、農耕文化とトテミズム文化の混合において生まれるものであるとする臆説や、西方の他界はこの文化圏のものであるとする見解を発表したことがある。

 (牧畜文化)×(トーテミズム文化)

・父系制。首長権と社会の階級化。
・マナ、社会的タブー

 いささか図式的に過ぎるところはあるけれど、おおざっぱな見通しとしては有効性を失っていないのではないだろうか。これでいえば、古代琉球弧は、(農耕文化)×(トーテミズム文化)になるが、ここで「動物仮面の登場」としているのはなぜだろうか。

 そこで、手元の資料で分かる範囲で仮面習俗と他界の関係を抽出してみる。

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 驚くことに、純然たる地下他界と仮面を結びつけることができない。

 バイニング族に象徴されるように、仮面自体は他界が発生する以前から出現している。ぼくの考えでは、霊魂の衣裳が身体であるという観念まで来たとき、仮面は出現の根拠を持つはずだ。その際は精霊への変身そのものを意味すると思える。

 ニューブリテン島のドゥクドゥクを行うトーライ族は、埋葬そして地下なのだが、死因に魔術があり、死後、動物のなかに入りうるとして、霊力思考の関与が入っている。バンクス諸島も、地下に行くまでの経路で地上を辿る。タミ族も埋葬にして地下だが、転生信仰があり、霊力思考の影響が見られる。

 セピック河流域のイアトムル族などは、資料がないが、別のクオマ族は、地上の他界か、他界観念が希薄(「各氏族は、その周囲のどこかに祖先霊の住所を認めている(p.297)」を参照すると、同様に地上である可能性を持つ。

 すると確かに、棚瀬の見立て通りなのかもしれない。ぼくはこれまで、地下他界と仮面を第一義的なものとし、海上他界になっても、出現の根拠を失わなかったと考えてきた。しかし、それは修正しなくてはならず、地下他界を持っていたが、霊力思考の影響を既に受けていたとみなさなくてはならない。

 ただ、来訪神の根拠としてはこの方が考えやすい。霊魂思考において「骨の霊魂」、特に頭蓋を根拠にして高神は生まれる。これに対して、「肉の霊魂」はしばらく死者の周辺をさまよう不安定な時期を経て、他界へ行くとしてきたが、一時的にせよそれが帰来するという運動性と肉体を持つ根拠が分からなかったが、ここに霊力思考を関与させると、再生、転生信仰の別の形態としての一時的な帰来と、霊力による肉体の獲得という根拠を持てることになる。こうした条件が、仮面の習俗を普遍的にしない理由なのかもしれない。

 もうひとつ言えそうなのは、仮面の来訪神は再生信仰とは共存しないが、転生思考とは共存することだ。タミ族がそれを現わしている。ただ、琉球弧ではその両方が出現している。これは地域的な、時代的な濃淡として仮定的に考える。

 


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