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2014/12/21

天上と地下の対置

 天上と地下が対置されるのは何を意味するのか。棚瀬襄爾は考察している(『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』)。

 南太平洋において、天上と地下の対置が明瞭なのはポリネシアである。エリス諸島のナヌメアでは、天上界と泥と暗黒の世界が対置されている。ニウエ島では天上界は永劫の光の国、地下は暗の国。ソサエティ諸島では、天界と暗黒の地下界。ポーモツ諸島では、祝福された者の行く上層と、生ける者の中層、生存中に悪をなした者のさ迷う下層との三層。

 天上と地下のどちらに行くかを決定するのは、社会における地位ないしは階級による。天に行くのは、首長、戦士、貴族、司祭などである。

 ふつう地下界は、この世の延長でこの世よりよいところと思考されるが、ポリネシアの宇宙創造論と結合されたとき、あるいは天上と対置された時、暗黒の国や天上界よりは劣った世界という思考が生まれたと考えられる。

 天上は、台上葬などの乾燥葬、地下は坐位埋葬と結びついている。

 東南オーストラリアにも天上と地下の対置は認められ、オーストラリアの場合は、倫理的色彩を持つが、これは社会が階級化されていないこと、文化複合の年代が古いことによると考えられる。対置はインドネシアにおいても若干みられる。

 また、アジアの諸族においても、アイヌ、チュクチ、ヤクート、アルタイ族にも天上地下の対置が見られる。

 この対置について、ハーバード・スペンサーが、「複数他界観念は民族征服の過程に生まれるとした洞察は今も生命を持っていると思われる(p.827)」。

 オーストラリアの天上地下には階層がないが、ポリネシアの天上地下には階層が見られる。これは天の階層が地下に反映されたものである。

 さて、この天上と地下の対置は、宮古島狩俣の空間認識とも符合する(cf.「宮古島における天上と地下の対置」)。

 天上の「ティンヤ・ウイヤ」と北の「ニスマ」は置換可能というように、北と天上がつながってる。宮古島の北の池間島の北端には小高い山があって、ここを「北の部落の(イーズマヌ)天へ昇る道(ティンカイニユーイシツ)」と呼んだ。死者はこの北端の山を越えて天に去っていく。宮古島の北端のセド崎には多くの人骨があった。池間島の御嶽に宮古島中の弱まった魂が集まり、さらに北の池間島の北端には天に昇る道があって、死者はそこから去る。「宮古島の他界観念の方向が、つねに北へ北へ志向している傾向がこれでよくわかる(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)」。多良間島では、三十三年忌には「今日からは天の星となって子孫をお守りください」といって祈る。

 一方で、地下の「ニズヤ・カニヤ」と南の「パイヌスマ」との置換関係も見られる。

「宮古嶋記事士次」(1748)によれば、「野崎満さりや南風の嶋より逃げ帰りし事」と題する一文がある。沖縄からの帰途「お不ら」という島に漂着し、呪詛によって牛にされるところを、辛うじて逃げ帰る物語であるが、この記録が完成する二十年前に世に出た『雍正日記』には、継子を投げこんだという洞窟が「尻間山のあ不」とある。あ不(アブ)というのは洞窟のことなので、すなわち死の国は地下の暗い場所であり、同時に南を志向するという二つの要素の混合がここにみられる(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。

 また、洞窟を来世に通じるとみた例は宮古島に多い。大神島には「岩ヌパナ」という岩窟があって、それが底知れぬ深さなので、これが来世(ぐそ)に通じる所だといって島の人たちは怖れている(源武雄)。

 ぼくたちはここで本永清の描いた空間認識を追認すると同時に、宮古島における天上と地下の対置も確認することになる。ところで、宮古島でも風葬が多かったのであれば、やはりここにも埋められない埋葬としての風葬が見られるのではないだろうか。また、天上にしても地下にしても階層を示唆するものはないので、ポリネシアの天上と地下との直接的な関連はないと思える。

 ここでぼくたちは再び、祝女の樹上葬の由来に立ち返る(cf.「琉球弧の樹上葬」)。天上と地下が対置される場合、天上は階級をもとにした上位のものの他界だった。これにはポリネシアの場合、司祭も含まれる。そしてその葬法は、台上葬などの乾燥葬だった。すると、祝女の樹上葬も、再生思考によるものではなく、天上他界を志向した葬法だと言えそうだ。そして、それは北方経由の思考産物だった可能性を持つ。

 しかし、樹上葬や台上葬が観察された奄美や国頭でも、宮古島ほどに天上と地下が対置されているわけではないから、これは統治階級にとって生きた思考形態だったと思える。


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