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2014/12/26

「象徴的効果」

 こんどもまた、ぼくたちの目下の関心事にかかわる。アメリカ先住民クナ族で、難産に直面した女性を快癒するシャーマンの話。

 難産は、胎児をつくるムウという霊が、任務を越えて女性の魂を掴まえることで引き起こされる。霊的原理はプルバとニガ。プルバは、身体を離れることができ、「分身」あるいは「霊魂」と訳されている。ニガは所有者から奪うことはできず、「生命力」、「抵抗力」と訳されている。植物や石はプルバをもっているが、ニガを持っていない。人間と動物のみがニガを持っている。ニガは年齢につれて成長する。

 ここまでのところで、ぼくたちが「霊魂」と呼ぶものがプルバに対応し、「霊力」と呼ぶものがニガに対応しているのが分かる。クナ族では、霊魂は、無機物から人間まで持っているが、霊力は人間と動物だけが持つとされる。つまり、自分の意思で動くものに霊力を認めているわけだ。このことは、霊魂と霊力という二分は、人類に(少なくとも南太平洋においては)普遍的だが、その付与のされ方はさまざまでありうることを示唆している。クマ族は、無機物、植物と動物、人間との区別を基礎においた文化体系を持つのではないだろうか。

 琉球弧の場合、「霊魂」はマブイだが、「霊力」はセジでいいのかどうか、今のところ確信が持てない。両者をくるめてマブイと総称してしまっている気もする。クマ族において、ニガは成長しうるとしているのはマブイと同じだ。つまり、マブイには「霊力」的側面の意味も持っている。

 マブイは、「守り」を連想させるように、人間以外のものには適用しにくい言葉だ。だから、人間の霊魂のみを重視するところまで進んできてしまったと思える。あるいは、シィは人間以外のそれを表わすかもしれないが、人間と他の存在との霊魂を区別すること自体、マブイの新しさを示すようにも思える。たとえば、シィが元にあり、人間の霊魂を優位とみなした段階で、マブイという言葉が生れた、というように。

 レヴィ・ストロースは、シャーマンの治療について、たがいに排除する関係にない三つのタイプに分けている。

1.患者の器官または四肢が、手をふれるとか口で吸うとかして物理的取り扱いの対象とされる。その目的は病気の原因、一般には刺、水晶、羽などを抜き取ることであり、それを適時出して見せる。

2.治療がまず小屋のなかで、ついで戸外で交えられる悪霊との模擬戦を中心とする。

3.司祭者が呪文を唱え、作業を命ずる。これはなおさねばならぬ障害と直接、どう関わるかわからない。

 ぼくたちの関心事に則せば、これは、1が霊力思考によるもの、2は霊魂思考に霊力思考が関与したもの。3は、はっきりしないが、霊魂思考と霊力思考が混融したものだと思える。琉球弧では、2が中心であり、クチは3に該当するのかもしれない。

 難産の治療は、シャーマンが長い呪いを唱えることによってなされる。呪文の中身は、プルバの捜索をし、障害物を破壊し猛獣を征服し、ムウと大勝負をし、プルバを発見する過程だが、これは膣内に入り子宮に到達するまでの暗喩になっている。

歌謡は病める器官に対して施される心理的触診であり、治癒はこの触診によって達せられる。

 空想的怪物や猛獣たちが登場するのも、それである。

それらは「産気づいた女の痛みを増す動物たち」、すなわち擬人化された苦痛そのものである。

 レヴィ・ストロースは、シャーマンと精神分析医の相似性を繰り返し指摘している。

神経症に冒された患者は、現実の精神分析と相対して、個人的神話を清算する。原住民の産婦は、神話的に転移されたシャーマンと同一化することによって、まぎれもない器官障害を克服する。
精神分裂症の治療においては、医師が作業をおこない、患者がその神話をつくり出す。シャーマニズムの治療においては、医師が神話を提供し、患者は作業をなしとげるのである。
精神分析というこの、シャーマン述の現代的形式は、したがって、機械文明の中では、神話的時間の場所が人間自身の内にしかないという事実から、その特殊な諸性格を得ている。

 これらは、第零次の原理と第三次の原理が相似しているというぼくたちの考えにも示唆を与えてくれる。もう少しいえば、古代人は、自然への作用に対する、人間への反作用も、神話のなかに位置づけてきたが、現代人は、自然への作用には夢中でも、人間への反作用を神話のなかに位置づけてこなかった。だからそれは公害として表出されざるをえなかった、と言うことができる。


『構造人類学』


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