原ハイヌウェレ型神話
ハヌウェレ型神話は、殺された女(神)から穀物や有用物が発生するという筋を辿るが、それには古型があるようだ。
後藤明の『南島の神話』によると、ハヌウェレ型神話の紹介者であり命名者であるイェンゼンもその著書で「ウェマーレ族の観念のなかでは、女神ハイヌウェレと神的な動物、とくにウナギがその役割を果たすと書いているという。
実際、ニューギニア北部のウェワク周辺では埋めたウナギの内臓からヤムイモやタロイモが生えてきたという神話、ニューヘブリデス諸島では蛇からココ椰子とバナナが生えてきたという神話がある。イェンゼンはウナギを指摘したが、蛇とウナギは同型のもとして思考されている。
ポリネシアには蛇がいないので、ココ椰子を生みだす主役はウナギになる。かつ、男がウナギに変身して、女神と親密になり、死んだウナギからココ椰子が生えるという「ウナギの情夫」と呼ばれる神話が分布している。
そうであれば、トーテム的な動物から食物が生えてきたというのが古形で、女性が殺害されるのは、人間と植物との類似点を見出して以降だということになる。
しかし、後藤は、殺されるのは必ずしも女とは限らないとしている。
作物についていうと、死ぬのが雄の蛇ないし男の場合は、ほとんどの場合、ココ椰子を生ずる。一方、雌の蛇ないし女の場合は、サトウキビ、カヴァ、ビンロウジ、タバコといった副食、儀礼食あるいは嗜好品を生ずる傾向が指摘できる。
また、マレー、インドネシアからオセアニアにかけて見られるのは、男根から作物が生ずる話だ。たとえばハワイでは、「ココ椰子の木は、かつて頭は地下、男根と睾丸が地上に露出した状態で埋められた男が変わってできたものだ」ということわざがある。「空に向かって直立する椰子の木は男根、それにつく実は睾丸を想起させるものだ」。
この神話の段階では、男女の性交による子の出産という認識はないから、女性だけが生むことが重視されたか、男根崇拝によるものか、どちらかで変わりうるものと見なしておきたい。
男根の他に頭蓋骨から生えるという話も際立っている。ニューギニアから南太平洋一帯で、ココ椰子と頭骨が言語上同義とされるのは珍しくなく、インドネシアで首狩りの時、敵の首のかわりにココ椰子を使うという言い伝えもある。ルソン島のイフガオ族では、首狩りによって得た首からココ椰子が生えたという神話がある。ここからは、殺害される同族の女性と、首狩りにより殺害される異部族の敵とは同位相にあることが分かる。
これを一通り整理すると以下のようになる。
作物の起源:蛇(ウナギ)→人間
作物を生む人間:女/首狩りの敵の首/男根
象徴化:頭蓋→ココ椰子
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント