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2014/10/20

サマール島の洞穴葬

 フィリピン、ボルネオ、マレー半島、スマトラ、ジャワ、セレベス以東の他界と葬法について、棚瀬襄爾は以下のように整理している(『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』)。


 埋葬:坐位・屈位、頭蓋保存、果樹や財物の破却、病因・死因を霊魂の離脱と治療法としての捕霊、財物破却、死穢観念および払浄式。

 台上葬:台上または死体乾燥の工夫、伸展位、全骨保存

 地上の他界観念(山、島)は、この両者の混合によるもの。

 地上の他界は他界観念としては極めて未発達なものである。これを父祖の島といい、あるいは周囲の山と言い、あるいは死者の霊魂が山中の叢林に住むというがごときは他界と言えざる程のものかもしれない。  他界観念の未発達はマライシア人の古い文化の性格を示しているのであろう。(中略)オーストラリアでも台上葬民族には他界観念がほとんど発達していないところを見ると、乾燥葬を古い伝統としたらしいマライシア人にも本来他界観念は未発達であったであろう(p.683)。

 これは重要な指摘だと思える。琉球弧の風葬に視点を提供してくれるからだ。琉球弧にも、他界観念を持たない乾燥葬の種族が北上した。彼らは地下他界を持つ種族との混淆によって、島や叢林をあいまいな他界として観念したことがあっただろう。そして、彼らが風葬を行った。ただし、ここにもひとつの態度があった。

 ミンダナオ島南部、ダヴァオ湾のサマール島人は、地下他界(p.551)を信仰しているが、彼らは丸木舟を柩として使う。これを洞穴に持って行って別に葬儀もせず、黙って納める。墓は共同の所にすることが多く、サマール島西岸の住民は、洞穴の多いマリパーノ島(本文はMalipao-引用者注)をもっぱら選ぶ(p.599)。

 棚瀬は、サマール島において、地下他界信仰を持つのに、埋葬より洞穴葬が多く現れることについて、地理的条件によるものだとして書いている。

 洞穴葬はより多く乾燥葬の系統に属するものと思うけれども、また便宜的な葬法であることも免れず、環境に対する便宜から十分発生し得たことを認めねばならぬと考える(p.686)。

 これは琉球弧にも当てはまるものだ。やはり、風葬には埋められない埋葬という側面があったのだと考えられる。洞穴葬をするパリパーノ島を地図で見ても、琉球弧で言うところの奥武(オー)島と、まさに同じ地先の位置にある。



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