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2014/10/22

「地上の他界」とは何か

 「地上の他界」について、棚瀬襄爾は以下のように整理している(『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』)。

 恒久的な死霊の住所としての地上の他界。

 どこにでもいる(バイニング族)、ここかしこの周囲の空中(ミミカ地方)、森や岩のなか(アルフール族)、死霊の入る岩を崇拝(ザンバレス・ネグリト)は、原始的な他界観念の形態。

 オーストラリアにおける再生までの死霊の一時的な住所も、地上の他界の一類型として捉える。

 他界らしい他界として地上の他界が広い分布を示すのはマレーシア。もっとも多いのは山の他界。発生的には山の神秘感に基づくもののように思える(p.737)。際立った山がないときには漠然と周囲の山が他界とされる。叢林や河畔が他界になるのも同様の理由。火山も同様。火山と地下界に明瞭な関係は見出せない。

 山の他界と天の他界は結びつかない。

 もうひとつの類型は島の他界。マレーシア、メラネシア、ポリネシアに広く見られる。島の他界で重要なのは父祖の地とされていること。父祖出自伝説や民族移動によるものの他は、「幽玄な沖の小島」であることが多い(p.741)。

 これらの他界観念は、乾燥葬ないしはその関連の葬法を持つ。

 単なる漠然とした死者の住所やトーテム・センターから、地上に一定の他界が成立するためには、埋葬文化の参加が必要だった。「地上の山や島に他界を認める多くの民族では、オーストラリア的樹上葬に伴う儀礼的要素が失われ、払浄も行われ、副葬品も与えられるのだと思われる(p.744)。

 地上の他界の場合は、埋葬と樹上葬や台上葬が同時に出現することが多い。ただ、樹上葬や台上葬の場合、再生信仰が現れていいはずだが、資料からは確認できない。オーストラリアの樹上葬に典型的に見出されるようなトーテム・センターではなく、「幽玄な」山や島が他界とされたのは、乾燥葬と埋葬の接触によるものだというのが、棚瀬の考えだ。

 地上の他界は、乾燥葬を行ってきた種族にしてみれば、地上の地下化であり、埋葬を行ってきた種族にしてみれば、地下の地上化に当る。両者の交錯する場所として、「幽玄な」、「神秘的な」山や島は選ばれる。そこは地下的な地上というような、薄暗い、怪しい場所になるはずだ。

 一方、「どこにでもいる(バイニング族)、ここかしこの周囲の空中(ミミカ地方)」というのは、他界が時間性としてしか疎外されておらず、他界は存在していないと言っても同じことを意味している。

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