« 入団式のタイミング | トップページ | 農耕祭儀としての来訪神儀礼の遡行 »

2014/09/30

農耕祭儀と成人儀礼

 来訪神の儀礼とはどのようなものか。

 祭儀は、八月五日夜の司たちの女神役がビタケ御嶽(わー)の拝所でおこもりをするときから始まる。六日はオンプールーとよばれ、一年の豊作感謝をことほぐ日であって、夜には御嶽の境内でしし舞いが行われる。これがおわると、部落の家々は全戸が雨戸を厳重に閉ざして忌みごもりに入る。家の外に出ることも、部落内の道を往来することも、すべてがアカマタ・クロマタ祭儀団体(=男子結社)の厳格な統制のともにおかれる。というのは、この晩にビタケ御嶽の内部にあるナビンドーとよばれる霊地でアカマタ・クロマタが誕生するからである。したがって、団体の成員である男子は全員が御嶽の境内に参集し、一晩中寝ないでアカマタ・クロマタの生誕の秘事を護るのである。境内の周辺は若者たちによって厳重に警戒線がしかれ、何人もこれを突破して秘事を窺いみることができなくされている。境内の一隅に草を編んでつくられた小屋があり、男たちはここで寝泊まりする。御嶽のなかからは一晩中ゆるやかな調子で太古の音がきこえ、忌みこもっている村人たちに今宵こそはアカマタ・クロマタの産れる日であうろことを告知するかのようである。

 七日はムラプールーとよばれ、きたるべき年の予祝をする日にあたる。村人たちは一年に一度だけ出現するアカマタ・クロマタを迎えるための準備をする。女神役たちはパナグミと呼ばれる海の幸・山の幸を盛った献立をつくるのに忙しく、男の一部はアカマタ・クロマタの伴をするシンカとよばれる一団の先頭に立てるノボリを作る。これには太陽と月を染め抜いた旗がとりつけられている。午後四時頃になると、村人一同老いも若きも、子どもたちすべてが御嶽の境内にあるナハおがんに集まってくる。おがんのなかでは女神役すべてがパナグミをもって集まり、神宴をくりひろげる。やがて夕刻太陽が沈みはじめる頃にアカマタ・クオマタの子供が出現する。全身葡萄の葉で覆われ、両手に細い鞭をもっている。これに触れると一年以内に必ず死亡するというので、アカマタ・クロマタがあばれだすと、群集は必死に逃げまどうのである。親のカマタ・クロマタは夕刻も遅くなってから出現し、四神を中心にシンカが囲集し、さらに一般民衆も加わって豊祝の踊りを行なって御嶽における予祝祭を終える。夜はアカマタ・クロマタが一晩中部落内の各戸を、まず、トゥネムトの家から司→カマンガ→バクスの家へと来訪し、さらに祭儀団体における先輩・後輩の世代序列にしたがってつぎつぎと訪れていく。やがて一番鶏がトキを告げると、部落はずれの霊地ナビンドーへ通じる神道に村人一同が参集し、わらでたき火をして神送りの行事を行う。このときにはカマタ・クロマタが闇のなかから幾度となく姿を現わして別れの耐え難さを村人に告げ、村人もまた別れの歌を切なく、声をかぎりに歌いつづける。老人たちが万感胸に迫って思わず落涙するのも、このときである。この七日から八日朝にかけての行事はきわめてドラマチックで演出効果もすばらしく、そこには長年月にわたる文化的な発展の行程が深い影を落としているといえよう。(『南西諸島の神観念』

 秘祭を仔細もらさず記述するのは土台、無理なことだが、住谷一彦の報告は、祭儀を圧縮した形でその骨格と雰囲気を伝えてくれている。ここから読みとれるのは、来訪神が予祝の農耕祭儀として男子結社により行われているということだ。しかし、アカマタ・クロマタとの別離の際に、「老人たちが万感胸に迫って思わず落涙する」ところからは、来訪神が予祝のために訪れてくれたというだけではないことも感じ取れる。

 ところで、この祭儀では記述には現れていないもうひとつの過程が同時並行的に進んでいる。それは、男子結社への入社儀礼だ。それは、結社員が誕生の準備と儀礼に取り掛かる来訪神の出現の前夜に始まっている。そこで、長老たちによる加入者の審査、査問も行われるのだ。翌日、審査の最終判定が行われ、認められた者は早速、アカマタ・クロマタ祭儀の準備の一員に加わるのだ。結社員になった少年たちには非常に厳しい通過儀礼(イニシエーション)が待ってるが、これは、多くの部族社会に見られた成人式儀礼と同じ意味を持つ(cf.「『加入礼・儀式・秘密結社: 神秘の誕生』のメモ」)。

 成人式儀礼では、少年は母から引離され、痛めつけられ、しばしば怪物に飲み込まれるという形を取った、象徴的な死を経て、大人へと再生しなければならない。その過程で、名を変えられたり、村落へ帰っても別人のように振る舞ったり、また母親や親類も知らない人に接するように振る舞う。この最初の儀礼が数ヶ月続く場合もあるのだ。西表島古見の場合、この通過儀礼は、太陽の照りつけるなか、長時間、正座をし両手を大きく開いたり合わせたりする動作を繰り返し、少しでも姿勢が崩れると、棒でぶたれたり水を浴びせられたりすることや、意中の女性を告白することが報告されているが、これもかなり省略が進んだ内容であることが察せられる。

 とはいえ男子結社員は、村落の出身者であり品行方正でなければ加入できず、誰でもが儀礼を通過できるものではなく、そのなかでは仮面仮装のアカマタ・クロマタに関する秘密を守ることが厳命されるという点では男子結社の特性が顕著に見られる。

 エリアーデは、秘密の仮面結社に見られる特性として、次の四点を挙げている。それは、秘密ということが重視されること、通過儀礼の残酷さ、仮面によって人格(ペルソナ)化された「祖霊たち」の祭祀が優勢であること、そして、祭儀のなかで高神の存在がないこと、だ(p.134『加入礼・儀式・秘密結社: 神秘の誕生─加入礼の型についての試論』)。そして、この特徴は、アカマタ・クロマタ祭儀にもぴったり当てはまることが分かる。

 だから、アカマタ・クロマタ祭儀をその原型に向かって理解しようとするなら、来訪神が予祝の農耕祭儀として男子結社により行われているというだけでは不十分で、そこに男子の成人儀礼が含まれていることを言わなければならない。

|

« 入団式のタイミング | トップページ | 農耕祭儀としての来訪神儀礼の遡行 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87956/59819794

この記事へのトラックバック一覧です: 農耕祭儀と成人儀礼:

« 入団式のタイミング | トップページ | 農耕祭儀としての来訪神儀礼の遡行 »