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2014/08/08

死者を家に葬り、家を捨てる例

 棚瀬襄爾の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』から、今度は、死者の出た家に死者を残し、遷居する例をいくつか挙げてみる。


 遷居例1.カイ族(フィンシュハーフェン奥地森林地帯)。死の原因は魔術および死霊の働き。臨終の時は、死者の手を取って打ち、冷たくなった足をのばし、死者に物を言って頭をあげ、優しく寝かす。ある者は飛びあがり、槍で見えざる魔術師を刺し、ある者は家をゆさぶり、ある者は小刀を振りまわして耳を傷つけ血を流す。

 死体は死後2~3日目に埋葬。墓は家の下に掘る。墓穴はきわめて浅い。生前、埋葬を嫌がった場合は、包んで家の隅に置き、死汁は管で地上に流れるようにする。死汁が出なくなると骨を取り出し、下顎骨のほかは埋葬する。誰かの死んだ家は捨てる。死霊が出没して、夜は不安だからである。死者が首長や主要人物である場合には、全村を捨て、新しい場所に村を造る(p.328)。

 遷居例2.バテクノン族(バハン州)。死者は死んだ小屋に埋葬せられた。墓は深くなく、外に微かに死臭が匂うほど。小屋には椰子の葉が加えられ、蜂窩状にされて中が覗けないようにして、生者は遷居する。墓を恐れて行きたがらない。移ったところと墓の道には障碍物を置く(p.515)。

 遷居例3.クブ族(スマトラ島)。家の中に死者や瀕死の病人を残して逃げ去り、遠く隔たった場所に新しいさしかけを作って住む(by ローブ)。以前には死者を埋葬せず、死者の死んだ小屋または死者の発見せられた場所に木の棒で二尺位の高さの垣をして、その上に木の葉で屋根を作り、それがすむと、その場を逃げ去った(by ハーゲン)。(p.540)。

 遷居例4.イロンゴット族(ルソン島)。死者が出ると家族の人々はその夜中、悲しい声で泣き続け、その声は遠方からでも聞える。死の翌朝、死者の出た家を捨て、再び帰来しない。価値のある物は持ち去る。瀕死の病人の家が立派で捨てるに忍びない時は大急ぎで小さい別の小屋を作り、死去前に病人を遷す(p.596)。

 遷居例5.バゴボ族(ミンダナオ島)。病気が重症の場合は、巫者が供物の上に木像を置き、これを病人の身体の上を越させ、形代にする。死体は美服をまとわせ、家の中央に安置。哭人は死体のそばに座り、友人たちは死者の徳を讃える。振る舞われた飲食にあずかる。一夜、棺ができるまで死体をとどめる。納棺し、両半を合わせて縛り、割り目を石灰で塞ぐ。家の下に埋葬する。タブーを解いてから家を捨てる。家は朽敗にまかせる。「人はすでに往き、家も往ったに違いない」という(p.599)。

 遷居例5.プナン族(ボルネオの僻遠の叢林、諸大河の源流地方に分布する移動族)。弔葬儀礼を行わない。人が雨小屋のなかで死ぬや否や20~30人からなぢ彼らの集団は死体を小屋に残して、ただ木の葉や声だで覆うておくのみで、他に移ってしまう(p.615)。


 これを見ると、スマトラ島のクブ族、ルソン島のイロンゴット族、ボルネオ島のプナン族は、埋葬もせず、死体放置の形で家を去っている。プナン族を見ると、居住が部族単位であるようにみえる。

 ニューギニアのカイ族、マレーシアのバクテノン族、ミンダナオのバゴボ族では、死者は家のなかに埋葬される。カイ族、バクテノン族においては、埋葬も深くない。カイ族の臨死者に対する振る舞いは琉球弧のそれを彷彿とさせる。バゴボ族において、「人はすでに往き、家も往ったに違いない」と言われるのは、死者の家は死者の人格化された外延になっているのが分かる。

 他界例1.カイ族。死後まで存続する霊魂は、人間と似ている。霊質は、汁液が樹木に充満するように、全身に遍満もので、温熱のように触れる者に伝わる。死霊は、死後の霊魂だが、生前よりも優れている。彼を死に至らしめた魔術師に対する復讐がなされる。死霊は夜起きて悪さをなす。しかし、死霊は日常生活に物質的な助力も与える。死者の霊魂は、地下界に集まる。死体の骨から肉が腐り落ちた時に、あの世に行くとされる。あの世での生活はこの世と全く同じ。ただ、全てが影のようである。あの世でも死があり、死霊は再び死んで、動物になる(p.294)。

 他界例2.クブ族。未開のクブ族では、人間は死んでしまえばそれまでで、死後の世界の観念については何も持ち合わせていない(p.535)。

 他界例3.バゴボ族。霊魂の不滅に信じ、善悪に対する応報の観念を持っている。死後、霊魂が天に達するためには十個の駅を通らなければならない。それぞれに支配する神がいる。善人は最後の駅であらゆる幸福を楽しむが、悪人は途中の駅で、ありとあらゆる苦痛をなめる(p.550)。

 他界例4.プナン族。あの世とあの世への旅に関する説話がある。死の川の向こうには冠犀鳥?がいて、その鳴声で死霊をおどかして川に落し、冠犀鳥と組んでいる大魚に食わせる。川の向こう岸には Ungap という釜と槍を持った女がおり、これが袖の下さえ出せば死霊を助ける(p.557)。


 これを見ると、クブ族においては他界観念は持っていないとされる。死者の家の放棄は無他界の段階まで延びるわけだ。というより、無他界の段階に起源を持つ行為だと言える。無他界の段階では、共同幻想と自己幻想、対幻想は未分離の状態だ。そこでは、死者の自己幻想や対幻想が共同幻想に回収されてしまうと、それは部族員全員に及ぶことだから、死者の人格が外延化される家を捨てることによってしか、共同幻想の浸潤から逃れる手段が無かったことを示すように思える。

 知りうる限りでの琉球弧の習俗は、ニューギニア東部のカイ族に親近感を覚える。ただ、カイ族は動物への転生が信じられている。

 これまでのところで、遷居葬の推移を段階化することができる。

1.死者を放置して家を捨てる(クブ族、イロンゴット族、プナン族)。
2.死者を家に埋葬し、その後、家を捨てる(カイ族、バクテノン族、バゴボ族)。
3.死者を家の外に埋葬などをし、家を捨てる(ババル島)
4.死者を家の外に埋葬などをし、家を出るが帰ってくる(ザブブン族、アマンダン島人(時に)。(琉球弧の外窯)

 この後、死者を外に出し、家を出ない段階がやってくる。2以降は他界観念が発生している。対幻想が共同幻想に対して独自の位相を持った時、家を捨てなくなったと言うことだ。

 調べれば調べるほど、環南太平洋は、琉球弧の大きな母胎であったと感じられてくる。それにしても、なんてすごい段階を経てきたことだろう。



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