« オセアニアの他界観念一覧 | トップページ | 死の位相変化 »

2014/08/02

バイニング族のカヴァット

 ニューブリテン島のバイニング族は、時間性としてしか他界を表出していなかった。 

死霊はどこにでもいるが、目には見えず、定まった住所を持たない(バイニング族、ニューブリテン島、p.163)。死者を埋葬はするが、墓穴を塞ぎはしない。野獣に対する防御手段も講じない。弔葬儀礼もほとんど行わない(棚瀬襄爾『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』p.206)。

 彼らは、仮面仮装の儀礼を持っている。

ニューギニア島の東に連なるニューブリテン島に関しては, この地に古くから居住するバイニング族の人々の手によるカヴァットの仮面が有名である。 弾力のある木の骨組に樹皮布を張り付け, 赤・白・黒の三色で彩色されたこのヘルメット型の仮面は鳥の精霊を表すものとされ, 仮面結社への加入儀礼に際して, 他の野生動物をかたどった仮面と共に, 大きな焚き火の中に飛び込んで激しい踊りを演じる。(「仮面とプリミティヴィズム」~プリミティヴ・アートとしての仮面の魅力~梅本涼)

 アカマタ・クロマタと同じ「赤・白・黒」三色であることに目が行く。これは、仮面仮装の儀礼としての同一性というより、古代の色認識の同一性なのかもしれない。ドゥクドゥクもニューブリテン島にある。

 ニューブリテン島の他界は、ヌルアン島という小島。「はるか彼方の岡の向うにある穴」であり、島の表象はないが、地上の他界に一応は分類さられる」(p.184)。

 この他界のあり方は、地下ではないものの、島と他界の二重化がトロブリアンド諸島と似ている。地下他界は、南部メラネシアに分布している。

 梅本はこの他にもメラネシアの仮面文化について触れている。

 広大なオセアニアの中で仮面が制作されているのは, ニューギニアからソロモン諸島にかけてのいわゆるメラネシア地域に限られる(後略)。秘密結社の加入儀礼や成人儀礼、 あるいは葬送儀礼や農耕儀礼など、人々の生活のあらゆる場面に仮面が登場し、仮面の踊り手は、それぞれの氏族の死者の霊や祖先の霊、あるいは森の精霊の化身とされている。 仮面そのものは、顔の前に着ける文字通りの仮面よりも、全身をすっぽりと包む藤や樹皮でできた大型のものが多く見られる。 特に、パプアニューギニアのセピック川流域では, 仮面にかたどられる顔が仮面だけに留まらず、精霊堂の壁や柱、鉤、戦闘用の槍や盾、土器などの表面、さらにはカヌーの舳先にも表される。 まさに、生活のあらゆる場面に、祖先や精霊の存在が刻み込まれていると言ってよい。

 セピック川中流域のイアトムル族。

成人儀礼に際して少年たちの身体にワニの鱗を表す瘢痕を施す手術が施されるが、そうした儀礼が行われるのも、この精霊堂の内部である。様々な儀礼で仮面を着用できるのは、このような成人儀礼を終えた男たちだけに限られている。 さらにイアトムル族の社会では、マイやアバンと呼ばれる仮面が用いられていて、このうちマイと呼ばれる木製仮面には目の部分に穴が空いていない。 これはこの種の仮面が顔に直接装着するのではなく、全身を覆う蓑状の被り物の上部に取り付けて身に着けられるためである。 マイは神話で語られる兄弟姉妹の二組のペアとして「マイ・バング」 と呼ばれる家屋落成の祭祀で踊りを演じる。 一方のアバンは、 上下に二つの顔を持つ藤製の被り物型の仮面である。 成人儀礼に登場し、少年たちを教育する役割を担う。 また、親の言うことを聞かない子供がいると、アバンを呼んで、折檻してもらうこともあるという。 日本のナマハゲを思わせる習慣である。

 マイは、家屋落成の祭祀に現れる。兄弟姉妹の二組のペア。アバンは成人儀礼に登場する。

 アベラム族。

 男たちは大きなヤムイモを競って栽培する。 ヤムイモとはこの地方の主食で、形や大きさ、毛根の有無、中の実の色、味などの違いによって様々な品種があり、住民は少なくとも数十種、民族によっては百種を超える品種を見分け、土地に合わせて適切な品種を選び栽培する。そうして収穫できた大きなヤムイモに藤細工や木製の仮面を着け、さらに羽毛の装飾や彩色を施して飾り立てる。 ヤムイモには精霊の名が付けられていて、仮面を装着したヤムイモはその精霊と同一視され、そのヤムイモを食べることによって、人々は精霊との一体性を確認していくことになる。

 アベラム族はヤムイモの収穫祭。出現するのは、ヤムイモの精霊。

 ニューアイルランド島北部。

一連の儀礼とその儀礼で使用される仮面や彫像を包括的に指し示すのに、マランガンという呼称が用いられる。 マランガンの儀礼は、基本的には死者を悼む葬送儀礼であるが、同時に少年たちのイニシエーションも兼ねている透かし彫りを多用した複雑な構造を持つ仮面や彫像などは、個々のマランガンの儀礼毎に何ヶ月もかけて制作される。 しかし、儀礼が終われば, それらの仮面や彫像は廃棄されるか朽ち果てるままに置かれるかのいずれかである。

 マランガンは死者儀礼と成人儀礼。

 これらの例は、来訪神が農耕儀礼になる前に、成人儀礼や死者儀礼のなかで出現したことを示唆している。

|

« オセアニアの他界観念一覧 | トップページ | 死の位相変化 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/87956/59579964

この記事へのトラックバック一覧です: バイニング族のカヴァット:

« オセアニアの他界観念一覧 | トップページ | 死の位相変化 »