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2014/08/07

遷居葬の段階例

 棚瀬襄爾の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』から、死者の出た家を遷居する例をいくつか挙げてみる。

 葬法例1.ババル島では死者の家を捨てる。捨てる際かまどの灰を外に投げすてる。死体は漁網につつんで埋葬することもあり、岩窟に台上葬することもあり、舟棺を用いて埋葬することもある。東部を東にする。後に頭蓋を掘り、洗骨して饗宴を催す。これがすむと寡婦が洞穴に頭蓋を納める。そこから木の枝を持って来て村の人々がこの枝から木の葉をちぎる。これは死霊の助力を確かめる象徴的手段であるという。服喪期間中死者の夫は剃髪するし、妻は次の新月まで身体を洗わず、頭を布で包む(p.640)。

 葬法例2.アンダマン島人。墓地には特定のところはない。居所から少し離れている便宜のところならどこでもいい。埋葬または樹上葬。埋葬は死の当日行うが、翌日に延びる場合は、通夜をし時々泣く。暗い間は男たちが代わる代わる歌を歌う。死を惹起した精霊を遠ざけるためだという。服喪期間の終わるまで数か月、居所を移し、忌明になると元の居所に帰ることもある。忌明までは誰も墓の付近に近寄らない。服喪の終末において死者の骨を掘り出し、泣く。舞踏を行う。海または渠の水で洗って家に持ち帰る。頭骨と顎骨を特に重んじ、赤と白に塗り、別々に首にかけるように飾網を採りつける。(p.509)。

 葬法例3.ザブブン族のイジョク人は家の中に死者が出ると、直ちに遷居する。死者の帰来を恐れるからである。しかし、2ヶ月経つと元の所に帰ってくる。死体は伸展位にして仰臥させ、頭を夕日の方向に向けて埋葬する。埋葬のときに、「先にいらっしゃい。私は後から」という。彼らは死後7日間は死霊の恐怖の中に住む。死霊は西方に行くが、その幸不幸は知らない。だが一方では、死霊は旧屋のあたりをさまようと考え、新しい墓には食物を墓の中または上におく(p.514)。

 ババル島において、家を捨てる際、「かまどの灰を外に投げすてる」こと、死体を「漁網」で包む場合もあることなどは、琉球弧との類似性を感じる。竈の灰を捨てるのは、火の神を更新するため、死体を漁網で包むのは死霊から守るためであるかもしれない。洗骨も行われている。

 アンダマン島人においては、遷居の後、しばらくして帰ってくることもある。ザブブン族の場合は、帰ってくる。酒井卯作が琉球弧において想定した推移に照らせば、こと遷居に関する限り、ババル島(家を捨てる)、アンダマン島人(帰ってくることもある)、ザブブン島(帰ってくる)という順序が想定できることになる。ただし、家を捨てるといっても三例とも、死者は家の外に移されており、一時的であれ捨てる家が死者の居所になるわけではない。

 彼らはどのような他界観念を持っているのか。


 他界例1.ババル島では西方に横たわる島ウェタンを死霊の国と考えている(p.566)。

 他界例2.アンダマン島人においては、霊魂(ot-yolo、反映の意)と精霊の観念を持つ。霊魂の色は赤く、精霊は黒い。精霊は目にはみえないが、その属する人の形をしている。悪は霊魂より生じ、善は精霊より生じる。死に際して両者は身体から離れて別々になる。精霊は地下界に行く。地下界では他の精霊とともに地上におけるのと同様の生活をする。六歳以下の子供の場合は、無花果の下の地下書きに行き、無花果を食べて生きている。成人の霊魂は、至上神プルガに下された審判によて、精霊の管(虹)を通って、極楽に行く。プルガの命じる地震によって霊魂と精霊が合体し、幸福な生活を送る(by マン,p.482)

 アンダマン島人は精霊を信じている。森、海、空の精霊の呼称を持つ。人間が死ぬと精霊になる。死後、精霊は墓所の周辺をさまよい、後、他の精霊とともに森または海に住む。一定の期間の後、地下界に行く。地下界は地上と似た世界。精霊は肉が腐った後、天に行く。神話的祖先と最近死んだものの霊を区別する呼称がある(by ブラウン、p.483)。

 他界例3.ザブブン族では、死者の霊魂は母趾または頭の頂から出るともいい、また全身から出るというが、人間のごとき姿をしていて白い。死霊は一人で極楽 Laud に行くが、ときには祖霊が来て連れていく。Laud を預かるものは Yak Chin(祖母チン)で、太陽の沈む近所にある。そこには mapik の木が生えていて、一面には赤い tanjong の花を、他面には hibiscus の花を咲かせている。死霊は死後七日目の夜、Laud へ行くが、行く前に喉にバナナの灰をぬって食べる。死霊は生者のように口では食べない。

 ここで突きあたるのは、それぞれ別の研究者の報告なので、記述の厚み、語彙の使い方が違うこと、またアンダマン島人のマンとブラウンのように研究者によって報告内容が異なることである。ただ、いずれの場合も他界観念は発生している。ただし、共同墓所のようなものがあるわけではなく、他界は時間性としての疎外を色濃く持っている。

 アンダマン島人では精霊の観念が生きている。ザブブン族において、神話的祖先と最近死んだものの霊を区別する呼称があるのは興味深い。漠然としてはいるが、琉球弧における死に際しての遷居が、他界の時間性疎外の段階にあることが見えてくる気がする。また、死者を家の外に出した後も、家を捨てるか外に籠る段階のあったことを示すように思える。


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