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2014/08/28

南太平洋の骨噛みと再生信仰

 棚瀬襄爾の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』から、南太平洋における骨噛みの習俗を挙げてみる。

 事例1.アタフ(デュークオブヨーク)島(ニュー・ブリテン島東北沖)。ラグーンの深所に水葬するのが一般的。敵意を有する者の死体を引きあげて食うこともある。一方では死者の家に埋葬することもある。

 事例2.ニューギニア中央部の諸族(山岳住民)。殺した敵の肉を食う。自部族の場合は、小さい筏に乗せてセピク河に流す(p.334)。

 事例3.マラ族(北部オーストラリア)。住居から離れた叢林のなかで焼かれる。母の兄妹の子が行う。死んだ人によって食べる人も決まっている。ムンガライ族も同様。

 事例4.グナンジ族(北部オーストラリア)。倒した敵を食べる。また、自部族の死者をも食べるという(p.104)。

 事例5.ビンビンガ族(北部オーストラリア)。死体は死の直後、異半族の者が、全関節を切断。地面に穴を掘って、火を焚き、石を熱し、切断した死体を置き、緑の小枝で覆い、その上に、土を積んで焼く。異半族の者が食べる。

 事例6.北部オーストラリアヨーク岬半島東岸の諸族。死体の各部は親族に分配される。心臓、肝臓は、最近親が食べる。食肉を与えるのは、同一氏族、同一半族に属するもの。死者の特別な徳や能力(たとえば、ヤム芋の採集)を獲得するため(p.111)。

 事例7.マリボロー周辺の諸族(東部オーストラリア)。食人の際は、骨は直ちに集める。埋葬、火葬、台上葬(p.92)。

 事例8.アンタキリンジャ族(南部オ-ストラリア、オールデア地方)。死産児は、近き将来の再生を確保するために母が食べる(p.117)。

 事例9.ディエリ族(南部オーストラリア)。父方の男の娘の子または母方の祖父が墓中に入り、顔、大腿、腕、胃についている脂肉を切り取り、親族に食べさせる。食べる者は親族関係が決まっている。この食肉はもはやそれ以上、悲しまないためであるという(p.95)。

 事例10.タンガラ族(オーストラリア、場所不明)。死者の遺骸を袋に入れて持ち歩き、死者に対して悲しみを覚えると肉を食い、ついに骨のみにする。骨は粉にして大水の時に投ずる(p.95)。

 これをみると、ニューギニアにおいては敵を食べる行為としてあり、近親の死者を食するのはオーストラリアで見られる。いずれも狩猟採集の生活民でかつ、埋葬は行っていない。ディエリ族、タナガラ族では悲しみを和らげるためであり、ヨーク半島岬の例に見られるように、死者の徳や能力を引き継ぐためであるとされる。

 問題はこれがどの段階で行われるかだが、この習俗に死穢観念は見られないから、少なくとも死穢観念の伴った死体の埋葬以前だということになる。

 ここには、肉体と霊魂の明瞭な分離が行われていないと思える。明瞭な二元論を持てば、霊魂を本質とし、肉体に「徳や能力」が宿るとは考えないからである。

 葬法とともに、他界観念が挙がっている事例を挙げてみる。

 事例1.ムンガライ族(オーストラリア)。太古の祖先たちが、わが身を打つと、トーテムに属する精霊児が出て、人間となった。死者の霊魂は、父祖の地に行き、やがて再生するが、再生ごとに性を変える(p.57)。

 事例2.ビンビンガ族(北部オーストラリア)。死霊は骨や火の上を彷徨う。儀礼を終えると、死者の霊魂は神話時代の祖先の地に帰り、しばらく歩きまわって再生する。

 事例3.アンタキリンジャ族(南オ-ストラリア、オールデア地方)。死後、死体から毛髪を切り取り、これで髪の毛の輪をつくると、死者の霊魂はそこに入り、トーテムサイトに行き、虹の蛇に飲まれる(p.60)。

 事例4.ディエリ族(南部オーストラリア)。死者の霊魂は睡眠者の夢のなかで訪れる。このような夢をみると、呪医に告げ、呪医が真実の幻覚であると判断すると、墓に食べ物を持っていって、火を点けるように命じる。死霊は天に昇る。一方、地上をさまようとも考えられている(p.52)。

 いずれも他界観念を発生させており、したがって霊魂は肉体から分離するという観念も持っている。ということは、他界観念を発生させていても、明瞭な霊肉二元論ではなかったことを意味するだろう。そして、ビンビンガ族とムンガライ族には、再生信仰を認めることができる。



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