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2014/08/09

再生信仰の諸相

 棚瀬襄爾の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』から、再生信仰の例をいくつか挙げてみる。 

 再生例1.ウォンガ・ムラ族とその周辺(南オーストラリア)。死者の霊魂はやや離れたところにいて、兄弟に会い、その中に入り、兄弟が死ぬまでその中に住む。兄弟が死ぬ頃には忘れられてしまう(p.52)。

 再生例2.アルンタ族(中部オーストラリア)。死者の霊魂は、岩など一か所に集まり、狙った女の中に入り、子供に再生する。実在の岩がある(by スペンサー&ジレン、p.54)。

 再生例3.アルンタ族(中部オーストラリア)。北海の海の中に死者の島が信じられている。死者の島、霊魂の地と呼ばれる死者の霊魂は、薄い白い姿。夜は踊り、昼は寝る。死後、霊魂は墓の付近にいるが葬宴が行われると死者の島に行く。雨が降ると、南方に彷徨いだし、故郷を見ようとする。子息をたくさん残した場合は、その肩を抱き、身体の中に次々に入り、成長させる。孫がある時は、孫に入る。1~2年して死者の島に帰る。死者の島の西方に行き、死者の木(しなの木)をあらゆる方向から観察する。西から黒雲が現れて落雷に打たれる。そしてこの世に戻り、ともに食事をし、死者の島の東方に行ってとどまる。死者の島の自分の家に戻り、西方から大きな黒雲が出て、雷に打たれて絶滅する(by シュトレーロー、p.54)。

 再生例4.カカドゥ族(北部オーストラリア)。国は元来、人々と精霊児に満ちていて、絶えず再生を続けている。霊魂、ヤムル(yamuru)は、しばらくするとヤムルとその影のようなイワイユ(iwaiyu)に分かれる。ヤムルが再生したくなると、遺骨を離れ、叢林で食べ物を探しに来た人を見つけると、ヤムルはイワイユを蛙の形にして食べ物に付ける。人がこの食べ物を取ると、イワイユは逃げる。何も知らない人が家に帰り寝静まると、ヤムルとイワイユは男と女の寝所に入る。イワイユは男を女を嗅ぎ、女に入る。ヤムルは再び自分の宿所に帰るが、女が子供を持つと、夜、夫にその子の名とトーテムを告げる。ヤムルは子供が生まれ、生長し、老いるまで保護の役をなし、いよいよ老いると、その人間のイワイユに新しき子供とトーテムの準備について語る。そこでヤムルは任務を終え、イワイユが新しいヤムルになる。子供は祖先のなかの特定の人の代表者と見られる(P.58)。

 再生例5.ヌラクン族(北部オーストラリア)。大昔の時代を Mus Mus 、その発祥の地を kundungini と呼ぶ。死者の霊魂は、父祖の地なる kundungini に行き、生まれ代わるまでそこにとどまる。再生ごとに性を変える(p.57)。

 再生例6.タミ族(メラネシア人。ニューギニア東部フォン湾の小島群)。人は長い霊魂と短い霊魂を持つ。長い霊魂は影と同一視。睡眠中、身体を離れ、覚める時、帰ってくる。胃にある。人が死ぬと長い霊魂は、死体を離れて遠方の友人に死去を知らせる。その後、ニューブリテン島西岸を経て、北岸の村に行く。短い霊魂は死後のみ離れて、しばらく死体の付近を彷徨ってから地下界、ランボアムに行く。ランボアムは現世と酷似するが、現世より美しくより完全。ランボアムに行った霊魂は、蛇形でときに現世に帰来する。この時、シューシューという音を立てるだけだが、この音を解釈する者(主に女)がいて何を話しているか判断する。また、死霊に尋ねる能力のある者(主に女)がいて、これは世襲。ランボアムで死んだ霊魂は、蟻や蛆になる(p.289)。

 再生例7.ボントック族(ルソン島)。人間の霊魂は、ta'ko と呼ばれ、死者の霊魂はアニトと呼ばれる。ボントック族のすぐ周囲がアニトの住家。生者と同様の生活を送る。アニトはどれだけの期間か生活すると再び死ぬ。そして蛇に姿を変える。したがって、彼らは蛇を殺さない。

 再生信仰の内容は多彩で、おおらかさのあるものもあり、読んでいて楽しい。

 再生例1.死→兄弟の中に住む→兄弟が死ぬ頃、忘れられる(ウォンガ・ムラ族)。
 再生例2.死→女に入り再生(アルンタ族)
 再生例3.死→子・孫の中に入り生長させる→1~2年して絶滅(アルンタ族)
 再生例4.死→部族の誰かの子の守護をする→その子が老いると役を終える(カカドゥ族)
 再生例5.死→再生(性を変える)(ヌラクン族)
 再生例6.死→霊魂が生前と同様だが、より美しく完全な生活→蟻や蛆(タミ族)
 再生例7.死→霊魂が生前と同様の生活→蛇(ルソン島)

 ウォンガ・ムラ族とアルンタ族の場合は、兄弟や子、孫の中に生きるとされるが、これは残された者の記憶像だということになる。記憶像を持つ時、兄弟や子、孫は、死者が自分の中に生きている、生長させていると感じたのだろう。兄弟か子、孫かということには部族の親族展開のありようが関わるのだと思える。

 カカドゥ族の場合、直接の親族の系列の中に生きるというわけではなく、広がりが生まれている。

 アルンタ族のもう一つの報告では、ここではっきりと別の人物として再生することが考えられている。ヌラクン族も同様だが、性が変わるのが特異だ。タミ族やルソン島では、蟻、蛆や蛇に転生するが、その間に霊魂の生活が置かれている。

 こうして見て行くと、再生信仰は、記憶像として始まり、霊魂自体の生活、霊魂の生者への復帰というように段階を踏んできたように見える。他の動物へ転生する場合は、動植物との同一視が強い段階、あるいはトーテム信仰が残存している場合で、人間の優位性の自覚とともに人間への再生が考えられたのではないだろうか。ここにトロブリアンド諸島の、現世より楽しい霊魂生活のあとに、母系の親族の誰かとして再生という例を加えると、より表情は豊かになる。

 これらは死による断絶を緩和させ、あるいはより希望を抱かせるようにした思考の結実だ。動物として転生する場合も、それまでは霊魂としての生活を思えばいい。また動物への転生であってもトーテムであれば不幸というわけではない。

 これらの例の葬法も一瞥しておく。

 葬法例1.ウォンガ・ムラ族とその周辺(南オーストラリア)。葬儀を執行するのは、死者の同一世代、祖父母の世代、孫の世代のもので兄弟姉妹は参与しない。埋葬だが、土でふさがず、木の枝をかけておくのみ。約四ヶ月後、その枝を取り去り墓を埋める(p.98)。

 葬法例2.アルンタ族(中部オーストラリア)。埋葬。坐位にして丸穴を掘り、土をかけ木の枝を積む。死者の住居に向ける。死者は近親を監視するから。埋葬が済むと死の発生した住居は焼き払い、家具は破壊し、集団の者は全部新地点に移る。服喪期間は死者の名を呼ばない。死霊を惑わすことを恐れる。死霊は人の睡眠中に不快を示す(by スペンサー&ジレン、p.100)

 葬法例3.カカドゥ族(北部オーストラリア)。叢林に埋葬する。

 葬法例4.ヌラクン族(北部オーストラリア)。死肉は食用に供される。

 葬法例5.タミ族(メラネシア人。ニューギニア東部フォン湾の小島群)。家の下、または付近の浅い墓穴に埋葬する。死体から群がる蛆を、ココナツの殻に集め、蛆が出なくなると、短い霊魂が、あの世に行ったと考える。死霊は自分を殺した魔術師を恨む。服喪期間は2~3年に及ぶ。喪明けに死者のために夜通し踊り、8から10日間、続く。最後に墓上の小屋を倒して燃やす。「死霊は、記憶の存する限り、家の例と考えられるのである」(p.325)。

 葬法例6.ボントック族(ルソン島)。それほど涙を見せない。死者を家の戸口に面して四日間、所持品とともに展示する。「あなたは死んだ。われわれはあなたの守をして皆ここにいる。必要なものを全てあなたにあげた。あなたの親族や友人を召す(殺す)ために来てくださるな」と言う。その後、埋葬する。

 再生信仰があるということは他界観念は当然、発生しており、葬法も埋葬になっていると考えていいようだ。タミ族の場合、死者の家は最終的には燃やされている。

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