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2014/07/26

遷居葬の分布

 酒井卯作が『琉球列島における死霊祭祀の構造』において、琉球弧のなかの痕跡を丹念に辿っていた「遷居葬」は、棚瀬襄爾(じょうじ)の『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』を見ると、オセアニアでその例を豊富に見出すことができる。

 見落としがあるかもしれないが、それは、フィリピン、マレーシア、イドネシア、パプア・ニューギニア、オーストラリアとかなり広汎にわたる。この事例を追っていて、酒井の言う「遷居葬」は、琉球弧にも存在していたとしておかしくないと思えてきた。

 共通しているのは、家を捨てる背景には死霊に対する恐怖が控えているらしいことだ。対幻想である家族が、死霊観念という共同幻想に対して、独自の位相を主張できず、共同幻想に追放されるのである。なかには村落自体が追放される例もある。狩猟や原始農耕では土地に対する執着は生まれない。言い換えれば、定着して農耕を始めるには死霊に対する恐怖をなだめる、そらす、無害化するなどの措置を施す必要があったということだ。


 1.イスネック族(ルソン島北部)。「土葬の後、数日はその地に留まるが、ついでその地を去る」(p.505)。
 2.ザンバレス・ネグリト(ルソン島)。家を捨てることあり。
 3.イロンゴット族(ルソン島)。死の翌朝、死者の出た家を捨て、再び帰来しない(p.596)。
 4.アンダマン島人(マライ半島西沖)。服喪期間の終わるまで数か月、居所を移し、忌明になると元の居所に帰ることもある。忌明までは誰も墓の付近に近寄らない(p.509)。
 5.ケンタ族(マライ半島の西北部)。誰かが家の中で死ぬと、直ちに他の場所に移る。死者の霊魂の帰来を恐れるからである(p.511)。「死者は人を殺すからである」(p.512)

 6.Chong Negrito(セマン諸族の一つ)。「ひとが死ぬとその居所を遷す」(p.483)。
 7.ジャハイ族(マライ半島)。死体は死の場所に葬る(p.513)。遷居するということだ。
 8.ザブブン族(マライ半島)。家の中に死者が出ると、直ちに遷居する。死者の帰来を恐れるからである。しかし、2ヶ月経つと元の所に帰ってくる(p.514)。
 9..バテクノン族(マライ半島)。生者は遷居する。移ったところと墓の道には障碍物を置く(p.515)。
 10.クブ族。家の中に死者や瀕死の病人を残して逃げ去り、遠く隔たった場所に新しいさしかけを作って住む(p.540)。

 11.サカイ族(マライ半島)。埋葬した後で家は焼くか棄てる。
 12.マンダヤ族(ミンダナオ島)。森の中に埋葬。埋葬に参加した人は帰り、葬宴に集まり、次に家を焼き払う。死者を殺した悪神を好かぬという理由(p.596)。
 13.バゴボ族(ミンダナオ島)。家を捨てる(p.598)。
 14.マノボ族(ミンダナオ島)。村を捨てる(p.599)。
 15.ブカット族(ボルネオ島)。以前は、死者を一人で放置し、急いで逃げてしまい、家を荒廃するに任せた(p.615)。

 16.プナン族(ボルネオ島)。死体を木の葉や声だで覆って、他の場所へ移ってしまう(p.615)。
 17.メラネシア人(ニューギニア島)。死者の家は引き倒し、財産とともに朽ちるに任せる(p.317)。
 19.ドブ島(ニューギニア東、ダントルカストー諸島)。死者の家は一年間放置。ヤム芋の収穫が済むと、倒す(p.317)。
 20.ワガワガ族(ニューギニア島)。死者の家は捨てる(p.318)。

 21.ツベツベ島(ニューギニア島東端の先)。死者の家を捨て、また破壊する(p.318)。
 22.ヤビム族(ニューギニア島東部)。死者が家長またはその妻であるときは、家はたとえ立派であっても棄てる(p.326)。
 23.カイ族(ニューギニア島東部)。誰かの死んだ家は捨てる。死霊が出没して、夜は不安だからである。死者が首長や主要人物である場合には、全村を捨て、新しい場所に村を造る(p.328)。
 24.スルカ族(ニューブリテン島)。頓死した者は埋葬はせず、木の葉に包み、家の中の台上におき、家を閉じて捨てる(p.206)。
 25.フロリダ島(ソロモン諸島)。遺品には一切手を触れず、家屋は荒廃にまかせる(p.217)。

 26.アルンタ族(オーストラリア)。埋葬が済むや否や死の発生した住居は直ちに焼き払い、家具は破壊する。集団の者は全部新地点に移る(p.100)。

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