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2014/06/04

霊魂から精神へ

 人は、死と霊魂の転位との間の時間的な差異を意識したとき、他界を生みだした。それは最初、闇の向こう側として表象された。その場所として指定されたのは洞窟だった。洞窟やそれに類した暗がりの向こう側が最初の空間としての他界だった。

 しかし、野ざらしの葬法も多いこと、洞窟においても名前なしに置かれたことをみれば、より多く時間的な疎外された観念として存在した。その後、これが両墓制へと展開することもなかったことは、時間的な表象としての他界が強かったことを意味している。また、洞窟の奥の暗がりは、他界への入口だが、他界からみれば現世への入口である。そこで、来訪神をそこを通って、現世に出現するようになる。

 しかも他界は時間性としてもその中身は豊潤になっていない。仏教用語を借りた後生(ぐしょう)も、(労働を除いて)生前と代わらない生活をしているという素朴なものだ。これは「死と霊魂の転位との間の時間的な差異」が、子供の童名が祖父母のそれを継承するように、きわめて短く、一時的なものに留まることを意味しているのではないだろうか。そして、この背景にあるのは、琉球弧に冬の季節がなく、かつ亜熱帯の植物群と珊瑚礁に恵まれているため、死の季節が時間として認識されない風土条件から来ていると思われる。花が季節を問わず咲いているように、島々は常に再生の息吹にあふれている。

 また、霊魂の転位による子の誕生という信仰のもとで、母系社会が生み出された。

 この神話(兄妹神話の-引用者)をもった「母」系優位の初期社会がどうして出現したかといえば、男女の性交をふくむ性行動、いいかえれば子どもからみた「父」「母」との性交と「母」の受胎、妊娠、出産とのあいだに関係のあることを認知できないところから由来している。これは重要なことだ。すぐに気がつく常識でいえば、受胎から出産までのあいだに十か月の遅延があるため、性交がすぐに受胎につながったとしても、十か月の空白をこえて性交が妊娠、出産とかかわりがあることを、初期社会の原住民たちは認識できなかった(p.109『母型論』吉本隆明)

 この母系社会では、母方から父方へ、婚姻関係が続く限り、永続的な贈与がつづく。この贈与の動機は何か。

 (前略)母(妻)の側の氏族にとって父(夫)の側の氏族との関係を生じることが正体のわからぬ〈霊威〉をもたらすからだと想定したほうがまだましなような気がする。この得体の知れぬ〈霊威〉はどこから発生するのか。べつの氏族からきた父(夫)がじぶんの母(妻)系の氏族の子どもを妊娠し、出産させてくれたじぶんの氏族の親しい〈霊〉と交換できる無意識の存在、これが正体のわからぬ父(夫)の〈霊威〉という概念を発生させた原因ではないのだろうか。(p.124『母型論』吉本隆明)

 ここで、父(夫)が、複数の母系の氏族との婚姻関係を結べは贈与は多重化され、「不変的な贈与制度はいわな不変的な贈与ともいうべき貢納制に転化され(p.127)」る。こうしてアジア的な段階に実質的に入っていく。

 性交と出産のつながりに関する認識が生まれると、霊魂は後退する。そしてもっと普遍的な「精神」という概念に取って代わられる。



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